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*死ネタ


『おはようサカズキ。天気はどうだ?航海日和か?』
「小雨が降っとりますが昼には上がるっちゅう話ですけェ、海はそう荒れんでしょう」
『ん゛んっ!あー……喉の調子が悪いなァ。空気が乾燥してるせいでやられたのかもしれない』
「いま雨じゃと言うたばかりでしょうが」
『風邪だったら嫌だなァ。おれ注射嫌いなんだよ』
「馬鹿は風邪を引かんっちゅうのになんであんたはそがァ風邪を引きやすいんか、わしゃァどうも不思議でならん」
『ハハッ、たまには心配してくれてもいいと思うんだが、お前はいつも、辛らつなことを言うよなァ……ああ、ところでサカズキ、今日の予定は?』
「今日は午後に会議がはいっちょるけェ、長引いたら遅くなるかもしれません。青キジの阿呆の尻拭いもせにゃァならんし新しく配備される軍艦の確認も、」
『仕事が忙しくて遅くなるのは仕方ないけど、メシはちゃんと食うんだぞ』
「……わかっちょります。それと、自分から振ったくせに話の途中に割り込まんでください」
『じゃあな。愛してるぞ、サカズキ』
「はい。わしも――――愛しとります」


アルバさん、と名前を紡いだと同時、耳に押し当てていたトーンダイアルの再生が終って咳と荒い呼吸に混じったアルバの最期の声がぶつりと途切れた。
海賊との交戦で散ったアルバがサカズキに残した、遺言というにはあまりにも中身のない日常じみた声。
それを何年も何年も毎朝再生してはまるで生きている人間相手のような会話を繰り返す己は、もしかしたらどこか、決定的に狂ってしまっているのかもしれない。
それでもこのやりとりはサカズキにとって最後の希望であり、贖罪なのだ。
アルバのいない世界で生きるための希望。
アルバにただの一度も伝えることができなかった、贖罪。

「……愛しとります、アルバさん」

誰も聞いていない告白をもう一度空気に溶かし、サカズキはそっと目を伏せた。
何度繰り返しても、何度朝を迎えても。
サカズキが至極簡単な数文字を口にしさえすればきっと返ってきたはずの大げさなほどの喜びの声は、もう二度と聞こえない。