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「やあサカズキじゃないか!久しぶりだな。元気でやってるか?新聞に載ってたが、ついに大将になったんだって?お前ならきっとなれるって思ってたけどさすがだなァ、同期として鼻が高いよ!御覧の通りの辺鄙な島だけど山の方には温泉が湧いてるしメシも美味いから羽を伸ばすには丁度いいと思うぞ。海賊も来ないし、島民も優しい人たちばかりだ。ゆっくり休んでいくといい」

一気に喋ってそれじゃあとその場を立ち去ろうとすると、それまで木偶のように棒立ちになっていたサカズキがおれの手を捕まえた。
ほぼ十年ぶりの手のひらは以前より大きくなっているような、そうでないような。
曖昧な記憶ではうまく比較できないが、確かなのは記憶にあるサカズキの手はこんなに冷たくなかったし震えたりもしなかったということだ。

「……わしを、恨んどるんか」

ようよう絞り出したというような掠れた声に一度完全に表情を消し、それから静かに笑みを浮かべて「まさか」と返すとサカズキの喉がひくりと動いた。
おれは昔、サカズキの部下だった。
海兵としてとびぬけて優秀なわけではないおれが化け物と評されるサカズキについていくのは言葉にできないくらい大変なことだったが、折れそうになるたびに「来い」と言って手を引っ張ってくれるサカズキに報いたくて必死に努力した。
しかし、誰よりサカズキに信頼されていると、右腕だと自負していたおれを、サカズキは信じてくれなかった。
海賊との内通疑惑がかけられたとき事情を聞こうともせず真っ先におれを責め、いつも引っ張ってくれていたその手をマグマに変えて命を奪おうとすらしたサカズキに、おれは身の潔白を証明することを諦めた。
そうする意義を見出せなくなったのだ。

サカズキが冤罪で処分される前に自ら職を辞し適当に行方をくらませたおれに今更こうして会いに来たのは、おそらく大将になったことで過去の記録を閲覧する権限を持ち、あのときの真実を知ったからだろう。
海軍を去る間際、一人の男がこれはサカズキへの嫌がらせなのだと教えてくれた。
嫉妬だとか派閥争いだとか色々な思惑が絡んで、その矛先がおれに向いたというただそれだけのありきたりな話。
あからさまに煽ってくる男に残念ながらおれは怒る気力もなく「おれが辞めたところでサカズキは何とも思わないだろうから嫌がらせにはなりませんよ」と投げやりに自嘲したのだが、今こうやってマグマの熱とは程遠いひやりとした手を頑なに放そうとしないサカズキの様子からすると、もしかしたら嫌がらせとして多少の効果はあったのかもしれない。

「わしゃァ、あのとき……ただ、お前に裏切られるのだけは、どうしても耐えられんかった」
「おれは裏切ってなんかないよ」

裏切ったのは、なあ、おれじゃなくてお前だろう?

笑顔を崩さないおれにサカズキの表情がますます歪み、その悲痛を受けて胸の中にどろりとした歓喜が湧きあがる。
あのときお前が信じてくれてさえいればただの右腕で満足できていたのに今になってこんな弱々しい姿を晒すなんて、お前は本当に馬鹿な男だよ。
サカズキ。