「昔飼ってた……っていうか、うちに居ついた野良猫がいたんだけどさァ、」 ぽつり、と言葉をこぼすように話し始めたそれが自身にはなんら関わりのない無益な雑言だと判断したのだろう。 おれの姿をちらと横目に映して、しかしすぐ興味を失ったように視界から外すそのつれない態度にやっぱり似てるよなァと目を細める。 「そいつ、自分から膝に乗ってきたりするくせに抱きかかえられるのは大嫌いでさ、逃げられるたびに可愛くねェのって思ってたんだ。でもよく考えたらどれだけ嫌がっても本気で噛んだり引っ掻いたりはしなかったんだよなァって」 そう言って唇に微笑みを浮かべ無防備なうなじにかかる髪を指に絡めて弄ぶと、擽ったそうに小さく身を竦めたクロコダイルがギロリとこちらを睨みつけておれの手を払った。 「やめろ、気色悪ィ」 不機嫌も露わに悪態をつくくせ、それ以上のアクションは何も起こさない。 やろうと思えばおれ一人程度跡形もなく消せる力を持った物騒な男の傷一つつかない攻撃にわざとらしく痛がってみせて、なんと分かりづらい気の許し方かとくつくつ喉を鳴らす。 「クロコダイル」 再度うなじに手を伸ばし抵抗される前に唇を寄せたおれにクロコダイルはビクリと肩を跳ねさせて射殺すような目で睨みつけてきたものの、やはりその手が明確な暴力を振るうために伸びてくることはない。 可愛くないけれど可愛かった猫と同じで、おれの恋人は結局とても可愛らしいのだ。 |