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別に薬に依存しているわけではない。
ただ頭だろうが腹だろうが痛ければどうしても気が滅入るし、多少頻繁に飲んだところで死にはしないから大丈夫だろうという楽観があっておれは普段から身体の不調を感じたら躊躇わず薬を服用するようにしている。
実際そこまで不健康な量ではないので問題らしい問題はないのだが、そんな薬に対する甘えを許さないのが我らが船長、死の外科医トラファルガー・ローである。
口に放り込もうと用意した錠剤ごと切り落とされた右腕が床に転がる光景も慣れたもので、最早原因を確認しようという気すら起らない。
あーあとやる気のない声をあげて右腕を拾おうとした左手、そして胴体が次々とバラバラにされ、歪なトルソーのように崩れ落ちた身体でようやく顔をあげてみればそこには真顔で青筋を浮かべたガチギレ状態の船長がいた。
なにも服毒自殺してるわけじゃないんだから、いい加減諦めてくれたらいいのになァ。

「おい、処方した薬以外は飲むなと何度言ったらわかるんだテメェは」
「えー、別に痛み止めくらい好きに使ってもいいじゃないですか。船の備品じゃなくて自分の金で買った私物ですよ?」
「口答えするんじゃねェ。必要だと判断すれば必要な分だけくれてやる。だから、それは捨てろ」
「いやいや、捨てろってこれ、私物ですよ?」

薬を所持することの正当性を繰り返して主張すれば一層恐ろしくなる表情にハァと気だるい息を吐く。
自己判断で薬を飲むのを止める気はさらさらないが四肢を封じられたこの状態で船長相手に抵抗しても無駄なのはわかりきっていて、ならばここは交換条件の一つくらいで妥協するのが得策だろう。

「薬、船長がちゅーしてくれるなら捨ててもいいですけど」

そう言い終わる前に首を掻き斬られ、髪を鷲掴みにされて生首になった頭を持ち上げられる。
そしてほんの一瞬だけ荒っぽく唇が重なったと思うと、そのままゴミでも放るような雑な動きでもっておれの頭はベッドの上へ投げ捨てられた。
痛いが、まあ、この痛みもまた慣れたものだ。
上手い方向へ転がった頭で船長のほうを確認する。
力を抜いた右手から錠剤が抜き取られた感覚。
つなぎのポケットに入れていた小瓶も、どうやらしっかりと押収されてしまったようだ。

「……処方外の薬は飲むな。わかったな?」
「あいあーい」

ギロリと睨んで鼻を鳴らす船長は自分の耳が誤魔化しようのないくらい赤くなっていることに気がついているのだろうか。
薬を飲むのが気にくわないだけならシャンブルズで奪ってしまえば事足りるのに毎度律儀にこの流れを繰り返すあたり、おれが薬を飲まなくなって困るのは船長のほうじゃないかと思うのだけれど。