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「寒くて寝付けないんです。温めてくれませんか、サカズキさん」

一端別々の布団に入ってから十数分後、おれが動いた気配でうっすらと瞼を開いたサカズキさんへ耳打ちするようにそんな甘えたことを言ったのは少し遠まわしな、もしくは相手によってはわりと直球だと感じるであろう『お誘い』のためだった。
この間したばかりなのに何をと呆れられるかもしれないけれどまだまだ若いと自負しているおれが羞恥し戸惑いながらも懸命に受け入れようとしてくれるサカズキさんの魅力に抗うことなどできるはずもない。
嫌がられるなら退くつもりではあるが、できることなら許容してはもらえないだろうか。
そう考えながら懇願するようにむっすりと皺を刻んだ眉間に唇を寄せると驚いたことにサカズキさんは躊躇うそぶりもなく「入るなら早うせェ」と自分の掛け布団を持ち上げてくれて、浮かれたおれは内心でガッツポーズをつくりながらいそいそと温かい布団に潜り込み――そこから先は、残念ながらお約束というやつである。

「…………サカズキさんって、」
「なんじゃァ」
「いや、サカズキさんって、体温高いですよね」
「今更なにを言うちょるんじゃ」

ため息交じりの言葉にそれ目当てで入ってきたくせにと訝しげに目を眇めたサカズキさんは、なんとおれの誘い文句を字面通りに捉えてくれたらしい。
元々体温の低いおれの手を大きな手で包み込んで労わるように撫でる様はまるで父親と小さな子供のようだ。
誘いに対して抵抗がなかった時点でなんとなく察していた部分はあったし別にこういう穏やかなスキンシップが嫌いなわけではないが、思いっきり期待していたぶんちょっと、いや、かなり辛い。

「風邪をひかれても、わしゃァ看病の仕方なんぞ知らんけェのう。予防がてら温めるくらいはしちゃるけェ、寒いときは言うてこい」
「わー……ありがとうございます」

海賊を前にしたときからは考えられないような穏やかで優しい声。
それとともにするりと足を絡められ翌日の睡眠不足を覚悟したおれだったが、染み入るような温もりに押されて数分後にはしっかり寝息を立てていたというのだから不甲斐ないにもほどがある。
恋人を襲いにいってそのまま寝かしつけられるとか、男としてかなりまずいんじゃないだろうか。



「今夜はまた冷えるらしいが、どうする」
「……お願いします」

とりあえず、寒い日の布団とサカズキさんは凶悪だ。