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しがない理容師見習いの若造と海軍将校であるモモンガさんでは恋愛に対する感覚が違うのだろう。
最初にそう感じたのは付き合いはじめてすぐのクリスマス、互いに仕事があることを嘆いたら心底不思議そうな顔で「何か問題があるのか」と聞かれたときのことである。
その後の年末年始も海軍の忘年会やら新年会やらがあってゆっくり過ごすことが出来なかったり、バレンタインに急な遠征が入ってデートの予定が流れたりしたのだがモモンガさんは案の定落胆した様子もなく淡々とその事実をおれに伝えてきた。
モモンガさんの職業上一緒に過ごせる時間が少ないのはしかたがないと理解しているし、そもそもイベントに敏感な女性と違い男がそういったことに興味を示さないのだって珍しい話じゃない。
特別な日に恋人らしい雰囲気を味わえないのは寂しいけれど、おれの我儘で無理に時間を作ってもらったって申し訳ないだけだ。
そして迎えた今年の六月六日、珍しく休日と誕生日が重なったモモンガさんに用意していたプレゼントを渡した際「すっかり忘れていた」という言葉と共に鋭い目が丸くなったのを見て、おれは今後一切のイベントごとを諦めることを決意した。


***


「……モモンガさん」
「…………なんだ」
「いえ、あの……ありがとうございます」

同僚たちが開いてくれたバースデーパーティーという名の飲み会でしこたま酒を飲んだ帰り道、暗闇の中ぽつんと灯りのともる我が家を見て一気に酔いが醒めた。
うちの合鍵を持っているのは恋人であるモモンガさん一人だけ。
しかし渡してから今まで一度も使用されたことがなかったため、まさかこのタイミングでモモンガさんが訪ねてくるとは思ってもみなかったのだ。
慌てて部屋に入って一番に目に飛び込んできたのは椅子に座りながらじとりとこちらを睨み付けるモモンガさんとモモンガさんの前に置かれているホールケーキの箱で、瞬時に状況を把握したおれは思いっきり動揺した。
あのモモンガさんがおれの誕生日を覚えていてなおかつ祝ってくれるつもりだったとかそんな馬鹿なという感じである。
しかしゆらりと立ち上がったかと思うと胸倉を掴みあげて臭いを嗅ぎ「誕生日に女と飲んでいたのか」と低い声を出したモモンガさんの殺気に疑いはすぐさま霧散して、結果おれの中には驚きと喜びと「嫉妬するモモンガさんかわいい」という惚気じみた気持ちだけが残ることとなった。
ちなみに言い訳と謝罪を終えた後で聞いてみたところ、他のイベントに興味はないがおれの生まれた日だけは特別なんだそうだ。
父さん母さん、産んでくれて本当にありがとう。