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- ナノ -

「このところどうも喉の調子が悪くてさァ〜……」

嫌になるよねェ、という掠れ声のぼやきと、乾いた咳払いを一つ。
鬱陶しそうに喉をさする歪んだ顔を見れば本当に喉が痛いんだろうというのは理解できたが、だからこそおれは呆れを隠すことなく溜息を吐いた。

「お前、馬鹿だろう」
「オー、酷いねェ〜……わっしのどこが馬鹿だってェ〜?」
「逆にどこが馬鹿じゃないってんだ?」

サングラス越しに不満げな視線を寄越してくるボルサリーノの口元、まだ火がつけられたばかりの煙草をピンと指で弾くと灰がはらはら宙を舞う。
喉が痛いというときにどうしてこんな乾燥しきった煙を吸いこもうと思ったのか。
非喫煙者のおれには全く理解しかねる行為だ。
しかもこの一本だけならともかく机の上に置かれた灰皿には吸い殻が山のように積まれており、視界すらどことなく烟っているほどの喫煙量とくればもはや馬鹿以外に言いようがない。

「……イライラすると吸いたくなるんだから仕方ねェだろォ〜」
「それで悪化して余計イライラするんだろうが」

やっぱり馬鹿じゃねェかと再度息を吐き、煙草を奪って灰皿でにじり消す。
そうして「これでも舐めとけ」とポケットから取り出した蜂蜜の飴をボルサリーノの口の中に押し込んで、ついでにむっとした様子で尖らされた唇を掠め取って部屋を出るとしばらく廊下を歩いたあたりで突然執務室の扉から目を焼くような閃光が漏れてきた。
窓から謎の発光現象を目撃したらしい部下からは「最近ただでさえ機嫌が悪いんだからこれ以上怒らせるようなことをしないでください!」と謂れのない非難を浴びたものの、煙草を吸わずに飴を舐めていれば喉の痛みはそのうち治るだろうし、本人は認めやしないだろうが機嫌にいたってはもうすでに良くなっているんじゃないだろうか。
馬鹿だよなァと考えながらボルサリーノにやったのと同じ飴の包みを剥いて口に放り込み、弄ぶように舐め転がす。
今頃まだ余韻のようにチカチカと点滅しているであろう恋人を思い浮かべつつ、おれは舌を痺れさせる甘ったるい味に小さく肩を竦めたのだった。