白ひげ海賊団の1番隊に所属しているアルバという男は与える側の人間である。 老若男女、恋愛も友情も信頼も尊敬もなにもかもひっくるめて与える側。 といっても無償の愛なんて高尚なものではない。 ただただギブに対するテイクがやたらと大きいだけだ。 愛されることが嫌いなわけではない、やはり好きな人には好かれたいしたまには甘やかされたいとも思う、でもそれ以上に一愛されたなら十愛し返したくなる性分なのだから仕方ないというアルバは俗にいう面倒くさい男なのだろう。 事実過去にアルバと付き合っていた女は皆口々に「重い」と言って去っていった。 ふられるたび慰めを請うて部屋へやってくるアルバから直接聞いたことだから間違いない。 ちなみに慰めた後のおれに与えられるのは当然胸やけや胃もたれの薬が必要になるくらいの愛情のお返しだ。 そういう行動のせいでふられたというのに懲りない奴だと呆れてもアルバはへらへら笑いながらおれを抱きしめたり頬にキスしたり、そういうことを平然とする。 一を与えれば十返され、十を返せば百与えられ。 打算も歪みも存在しない純粋な愛情は多くの人間を辟易とさせ、そしておれ、マルコという人間をいとも容易く狂わせた。 過去を振り返り自分は愛されたがりの子供であったかと問うならば答えは否。 間違いなく即答できる。 昔から良くいえば大人びていて悪くいえば可愛げのない子供であったおれは、まだ十になるかならないかの時点で早々に一人で生きる術を掴み、その数年後には海へ出る決意をした。 オヤジに拾われて白ひげ海賊団のクルーとなってからも兄たちの親切心を若干鬱陶しく感じていたおれが愛されたがりであるとすれば世の中の愛されたがり比率が大変なことになってしまう。 ならば環境的にも性格的にも愛されたがり要素など欠片もなかったおれが思春期も遥か彼方に遠のいた今になって日々執着だの依存だので忙しいのはなぜか。 それは一重にアルバの存在のせいだ。 1番隊隊長に選ばれて自立精神や責任感の歯車を加速させているところにアルバという小石が紛れ込んで、結果歯車崩壊依存直行。 ウザい重い面倒くさいの三拍子で評されるアルバの愛情十倍返しはおれにとってはなぜだか心地いいばかりなのだから仕方ない。 そして人間心地いいと思っていたものを取り上げられれば苛々するし不安にもなる。 おれはアルバのせいでこんな面倒な状態になってしまって、その面倒はアルバがいれば解決するのだから、つまり。 「全部アルバが悪い。お前にはおれを全力で甘やかす責任があるよい」 「なんかよくわからんがおれが罪な男だってことは理解した」 来い、と腕を広げられて迷わずアルバの胸に飛び込んだ。 アルバはあまり体格がいいほうではない。 身長はおれと同じか少し大きいくらいだが、いかんせんひょろっこい。 そんなアルバに勢いをつけたおれが加減なく飛び込むとどうなるかは考えるまでもなかった。 遠慮なく押し倒したうえで馬乗りになってこちらから先に髪や目尻にキスを贈る。 「アルバ、ほら甘やかせよい。はやく」 「甘やかしたいんだけど重い。青い炎の優雅さを裏切って超重い。なんなのマルコの筋肉すげェずっしりしてるんだけど同じもの喰ってるはずなのにこの差はどこから生まれるんだ……」 「おれが重いんじゃなくてアルバが軟弱なだけだろうがよい」 肩口に鼻先を近づけ息を吸うと汗と石鹸の香りが肺を満たす。 先日ナースの一人と別れたばかりのアルバから女の匂いはしない。 とはいえ地味に顔がよくてそこそこモテるアルバのことだからまたすぐにあの独特の甘ったるい匂いを身に纏いはじめるのだろう。 そのときのことを考えるとムカムカするが、とりあえず今は貴重なひと時を堪能するために深呼吸だ。 「あー……落ちつくよい」 「汗臭くね?」 「いつものがくさい。女くさい。どうせすぐ振られるのになんでいちいち告白されてオーケーするんだよい馬鹿アルバ」 聞くまでもなく例の十倍返し精神のせいである。 基本来るもの拒まずなアルバは誠実とは程遠い男だ。 そのくせ誰かと付き合っている間は無駄に一途で「おれだけを甘やかせ」という我儘を聞いてくれなくなるからたちが悪い。 「おれの愛を一生貰ってくれる人を探してるんだ。見つかったらその人だけ一生愛してらぶらぶハッピーエンド」 いぇい、とアホ面でピースサインをつくるアルバの指に思い切り齧りつく。 上がった非難の声を無視して今度は首筋に。 「おいマルコ?どうした?」 「……なんでもねェよい」 いいからさっさと撫でろと少しだけ身体を浮かせるとアルバは嬉しそうに破顔しながら上体を起こし、おれを腕の中に抱きこんだ。 喉元までせり上がった「おれでいいだろ」という言葉を飲み込んで体温を移すように身を寄せる。 もっと甘やかせ。 もっともっと、他の人間なら愛の重さに耐えかねてとっくに逃げだしてるはずだと、アルバの愛を受け容れられるのはおれだけなんだと気付くまで。 おれに、愛を。 |