「それにしても似合わないねェ〜」 「ファッションではないので似合わなくても問題ありません」 「オー…最低限似合うものを身につけるのはマナーでしょうがァ〜」 あれこれと理由をつけては顔を隠す大きめのサングラスを奪おうとしてくる手を躱し、失礼を承知で「あなたのおかげで着けるはめになってるんですからね」と溜息を吐くと自分と似たデザインのサングラスをかけた大将が拗ねたように唇を尖らせた。 いい歳をしたおっさんがしていい仕草ではないのにサングラスと同じく似合っているのが腹立たしい。 「どうしてそこまでサングラスを外させようとするんです?」 「つけてたらアルバの顔がちゃんと見えないだろォ〜……」 「そのためにつけてるんだから見えなくていいんですよ」 眉を寄せて溜息を吐くと大将がでも、だって、と子供のように駄々をこねながらぐだぐだと執務机に懐きはじめた。 どういうわけだか平々凡々なおれの顔に対し並々ならぬ執着を持つボルサリーノ大将はいつもほんの僅かでも目があっただけでピカピカチカチカと鍛えようがない網膜への攻撃を仕掛けてくる。 同僚たちからどうにかしろとせっつかれた結果かけはじめたサングラスのおかげでここしばらくは平穏だが、あれは本当に眩しいのだ。 こんな顔のどこがいいのかは知らないが眩しい思いをするとわかっているのにわざわざ外してやる義理はない。 「どうしてもつけるんだったらせめて、わっしが似合うのを買ってやるからさァ〜」 「結構です」 どうせ色の薄い、奥が透けて見えてしまうようなものを寄越すつもりなのだろう。 諦めが悪い人だと考えつつ「これでも大将とお揃いのデザインを気に入っているので」と首を横に振る。 と、一拍の間を置きサングラスの隙間を縫って目を焼く強烈な閃光が走った。 なにするんですかと抗議する前に飛び込んできたのは緩んでいるのを隠しきれていない、嬉しそうで照れくさそうで気まずげな表情だ。 ーーこの人まさか、もしかしておれの顔だけを好んでるわけじゃないんじゃ。 今更ながらに気づいてはいけないことに気づいてしまった瞬間だった。 |