おい、と一声かけると真剣な顔で書類に目を通していたサカズキの視線がついと上がっておれを捉えた。 何も語らず口元に紅葉型の饅頭を差し出せば疑うそぶりも見せずパクリとそれに食いつくサカズキ。 大きな口がもぐもぐ動いたあと一度の嚥下で口内が空になったのを確認し、もう一つ同じものをを取り出すとサカズキは「なんじゃァ」と言いつつまた饅頭にかぶりついた。 「お茶飲むか?」 「いらん」 「饅頭は?」 「まだあるんか」 小さすぎて食った気がせんけェあるなら寄越せと口を開いたサカズキの手は既に書類から離れていて、けれど鳥の雛のように口内を見せつける行為から察するに自分の手で饅頭を口に運ぶという考えはないらしい。 特別甘えているというふうでもなく至極当然といった様子で口を開くサカズキを改めて観察すると、そんなつもりではなかったとはいえ、最近になって初めて聞いたおれたちに関する噂話もあながち間違いではないような気がしてきた。 「なあサカズキ、ちょっと小耳にはさんだんだがな」 「あァ?」 「どうやらおれはお前のことを餌付けしてしまったらしいぞ」 「……あァ?」 いつの頃からかどちらからともなく始めた行為は確かに親子でも恋人でもない男二人がするには少々不自然だ。 けれど不名誉な噂をたてられていると聞いてもサカズキは「それがどうした」とでもいうように開いた口を閉じることはなく、おれはやれやれと苦笑して包みを剥いた饅頭を口の前に差し出した。 饅頭だけでなく指にまで噛みついたサカズキがそのままぬるりと舌を這わせ、ちゅうと吸い付く。 意図的でなかったにしろ、なんともまあ贅沢な懐かれ方をしたものである。 |