おれがサンジに「好きだ」と伝えるのは、例えば戦闘の昂りに雄叫びをあげたり、あるいは女の子が可愛いものを見て「かわいい!」とはしゃぎだしたりするのと同じであってそこに意思の疎通を図ろうという意図は存在しない。 「おれも」という返事が欲しくないわけではないのだがおれと違って生粋の女好きであるサンジに同等の愛など求めようがないのはわかっているし、なによりサンジは当初男同士ということに強い嫌悪感を表していた。 そんな相手に一方的に愛を吐き出して、それ許されているだけで充分すぎるほどだと思っている。 ので、不寝番のために見張り台に上がる前、いつもなら一日の締めのように口にする「好き」を言おうとして止めたことにだって大した意味はなかった。 サンジとナミが食料と航路の兼ね合いを確認していて、サンジは女の子におれとのあれやこれやを見られることを特別嫌うから邪魔をしてはいけないと気を使った結果だ。 だというのに、これは一体どうしたことだろう。 狭い見張り台の中、突然やってきたと思ったら足元に蹲ってだんまりを決め込んだサンジは拗ねているのか怒っているのか全くもって微動だにしない。 つついても話しかけても反応しないので眠っているのかとも思ったのだが放置しようとしたら脛に肘を入れられた。 なるほど。 どうやら反応がなくても構わないといけないパターンらしい。 「サンジ、おーい、サンジくーん?どうした、なんか嫌なことでもあったのか?」 ついさっきまで普通だったことを考えればおそらくは不寝番に入る前好きだと言わなかったことが原因なのだろうが、俄かには信じがたい話である。 普段からロビンに「仲良しね」と言われるたびサンジはそれを否定しているし、今日だって軽くハグしようとしただけで思いっきり突き飛ばされた。 そんなサンジが言葉一つのあるなしでこんなふうになるほどおれのことを好いてくれているなんて、そんな都合のいい話が果たして本当にあるのだろうか。 とりあえず寄り添うように屈みこんで頭を撫でてみるとサンジの肩がビクリと跳ね、そういえばハグも嫌がられたんだったなと考えて「スキンシップが嫌ならもうしねェよ」と距離をとる。 瞬間、素早い動きで伸びてきた手にシャツの裾を掴まれた。 顔を覆っていた腕が外れ、晒されたのは夜目にもはっきりとわかるほど朱に染まった白い肌。 「……なに、サンジ。頭撫でててほしいの?」 かわいいなァ、好きだよ。 にやけた顔でそう囁くと潤んだ目にぎろりと睨みつけられたが、再度伸ばした手に対する拒絶はなかったのできっとサンジは想像していたよりおれのことが好きなのだろう。 恋人が可愛くて、可愛い恋人に好きだと伝えることができて、おれは今日も幸せだ。 |