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*魚人主人公


夏島の暑さに耐えかねて海に潜り、それにも飽きて仰向けでぷかぷか波間を漂っていると不死鳥姿のマルコが腹の上に降り立ってきた。
どうやら羽休めのための陸地代わりにおれの腹を使うつもりらしい。
空と海に囲まれても一等美しく輝く蒼炎が青みがかったおれの肌を更に青く照らす。
神々しい光景だ。
間違いなくそのはずなのだが、しかし他でもないマルコが上手に歩くようにはできていない不死鳥の身体で安定の悪い腹の上をよたよた歩きだしたおかげで視覚的な神々しさなど瞬時に消え失せた。
まるで幼児の一人歩きを見守る親の気分である。

「おいマルコ、面倒臭がらずにモビーに戻って休め」
「なんだ、可愛い恋人が傍に来てやったってのに。嫌なのかよい」
「まあここがベッドでお前が人型なら嬉しかったんだがな」

可愛い恋人様の爪が動くたびに食い込んでいてェと顔を顰めたおれに「ここがベッドでおれが人型ならそれも嬉しいんだろうがよい」と目の前の鳥が器用にイヤラシイ笑みを浮かべ、その表情があまりにもマルコでぞくりとした。
おれは魚人だ。
人間だったら難しかったのだろうが、海でのアレコレはお手の物。
なんなら陸ではできない、マルコの知らないような体位だって水中でなら試すことができる。

「……鳥のまま海の上でってのも案外イイかもしれねェな」
「ばァか、イイわけあるかよい」

真剣な顔で呟いたおれの額をマルコがコツンと嘴でつつく。
屋根のない場所で盛る趣味はねェよいと言いながら唇へ嘴を擦り付けてくるマルコに帰還を促され、おれは一つ肩をすくめて腹に鳥を乗せたままチャプチャプ水を掻きはじめた。
海も悪くないと思うのだが、残念なことに魚と鳥が交わる場所は今のところかの白鯨の腹中にしかないようだ。