昔は塩をかけて焼くことしかしかできなかった料理が趣味と言えるまでになったのは美味いものを食ったときほんの僅かに緩むサカズキの表情を一番近くで見たかったからだ。 しかしそのサカズキはいま、マグマを彷彿とさせる出来栄えとなった鶏肉のトマト煮をもぐもぐと咀嚼しながら何やら難しい顔で皿を睨みつけている。 いつもよく噛んでから飲み込む奴ではあるがそれにしたって咀嚼が長い。 「サカズキ、どうした」 何か言いたいことでもあるのだろうかと考えて首を傾げながら声をかけるとようやくサカズキのせり出した喉仏が上下に動き、とうの昔に粉々になっているであろう鶏肉を嚥下した。 それに伴いこれまで皿に向けられていた視線がこちらへ向けられる。 予想どおり、見られているだけで焼け焦げそうな不満の籠った目だ。 「……おどれ、他の連中に料理を食わせちょるそうじゃのう」 「他……ああ、センゴクさんたちのことか?」 最初は新しいレシピを試すときサカズキに比較的味覚の近いセンゴクさんと師匠であるおつるさんに味見を協力してもらっていたのだが、そこにガープさんが乱入し、いつの間にやらボルサリーノとクザンまで加わって最近ではちょっとした食事会にまで発展している。 それがどうかしたのかと素直に肯定したおれにサカズキが面白く無さそうに鼻を鳴らした。 「後々でくれてやるのは構わんが、わしのもんを一番にわしに食わせんたァどういう了見じゃ」 「え?」 「……アルバの料理は、わしのもんじゃろうが」 「そりゃ、もちろん」 ぎこちなく繰り返された言葉に即答すると「なら一番に味を見るのはわしじゃ」と有無を言わせぬ口調で主張をされた。 勢いに押されて是を返すとそれを見届けるようにして大きく口を開き鶏肉にかぶりつくサカズキ。 堂々と独占欲を晒しておいて今更恥ずかしくなったのか、微かに赤くなった耳がまぶしい。 「……美味かろうが不味かろうが、わしのもんじゃけェ」 そう呟くサカズキの、先程とは違う穏やかな目と緩んだ口元に胸がくすぐったくなる。 きっとここはいま、世界で一番幸せな食卓に違いない。 |