「なあ船長、いい加減機嫌なおせって」 そう言って後ろをついて回るおれに、船長は一瞥すらくれることなく「うるせェ」と吐き捨てた。 誰が最初に言いだしたのか、クルー全員で酒を飲みながら「せっかくのエイプリルフールなんだから何か嘘をつこう」という話しになったのは昨夜のこと。 何がせっかくなのかは知らないが、まあ酒の席の勢いなんて得てしてそんなものである。 そこでおれは船長の手に無理やり自分の指を絡めて恋人つなぎをしながら「実はおれと船長付き合ってるんだ!」というとっておきの嘘をつき、静かにブチキレた船長にバラされた上でパーツをシャンブルズで船内にばら撒かれ、一晩かけてどうにかこうにか五体のうち四体を集めて今に至る。 ちなみに残りの一体であるおれの右腕は船長の手の中だ。 時々ギチギチと力強く握りしめられて非常に痛い。 「ただの嘘になに本気で怒ってんだよ」 「……うるせェ」 「つーか根も葉もないならともかく、おれらの場合半分くらいマジなんだからさァ」 「ッるせェっつってんだろ!黙れよ!」 おれの顔面めがけて腕を投げつけてきた船長ーー限りなく恋人に近い気がしないでもないセフレ様が「それでもお前にとっちゃ嘘なんだろうが!」と犬歯をむき出しにして大声で喚いた。 ふざけんな死ねとありきたりな暴言を残して逃げるように去っていった背中をぽかんと見送り、首を傾げる。 「……んん?」 もしかして船長は、おれが恋人だと嘘をついたことじゃなくて、恋人という関係を嘘だと言ったことを怒っているんだろうか。 えっ? セックスの後わざとそういう雰囲気出しても全然乗ってこないくせに? え?マジで? 「……なんだよ船長、ツンデレかよー」 にやにや笑いながら呟くと通路を曲がった先から「死ね!!」と罵声が返ってきた。 まったく、素直じゃねェの。 |