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「聞いてくれボルサリーノ、最悪だ!サカズキの馬鹿がおれの癒しを締め出しやがった!」

ノックもなしに扉を開け放ち土下座の一つ二つなんだってんだこんちくしょうと騒ぎ立てる恋人に、ボルサリーノは無意識のうちに皺の寄った眉間を指先で揉みほぐしながら「オー……」と間延びした声を漏らした。
癒しというと、突然現れて突然アルバのお気に入りになったあの紫色のことか。
それが何かやらかしてサカズキに締め出しを食らったと。
そいつは重畳、いや、大変なこって。

「……そんなに騒いだって元帥命令じゃどうしようもねェだろォ。しばらくはわっしで我慢しときなさいよォ〜」

ふんと鼻を鳴らして告げた言葉にアルバがきょとりと目を見開く。
頭の悪そうな顔だ。
どうせボルサリーノの考えていることなど、欠片もわかっちゃいないのだろう。

「昔はわっしにもよく言ってたろォ?馬鹿面して、癒される〜ってェ」

いつの間にだか言われなくなっていた、昔は間違いなくボルサリーノだけに向けられていた言葉。
恋人になって好きだの愛してるだのと言われるようになってからは気にしないようにしていたが、今更になって他人にそれを盗られることがこうも不快だとは思わなかった。
この歳になって恋人に対して独占欲を滾らせるなんて滑稽にも程がある。
理性でそう考えはすれど、やはり不快なものは不快だ。

「なんだよボルサリーノ、嫉妬か?」
「さァて、どうだろうねェ〜?」

苛々としながら、けれどもあまり表には出し過ぎないようゆっくりと吐きだした紫煙の向こうでアルバが笑うのが見えて、挑発するように目を眇めると掠め取るように銜え煙草を奪われた。
まだ半分以上残っていたのにと考えながら重ねられた唇の柔らかい感触を味わう。
ボルサリーノとは違う銘柄の煙草のせいか、それ以外に理由があるのか、アルバのキスは酷く甘い。

「お前も昔は癒し系だったんだけどなァ……お前、おれに惚れてからこっち、二人っきりになるとヤラシイ雰囲気ばっか出してくるんだもんなァ」

興奮しちまって癒される暇がねェよ。
そう戯言を吐いてネクタイに伸ばされた手の甲をぎゅうと抓る。
ええ、と声をあげるアルバは不満げだが、理由はどうあれアルバの軽率な言動がボルサリーノを不快にした事実は変わらないのだ。
恋人の機嫌を損ねておいて、そう簡単に馳走にありつけるとは思わないでもらいたい。