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『マニアックな性癖』なんて、ここまでピンポイントだとなんだかおれの性癖をあらかじめ知っている誰かに「いい加減観念しろ」とでも言われているようだ。
そんなことを考えながら、しかし確かに諦めてカミングアウトしてしまったほうが楽にはなれるだろうなと小さく息を吐いた。
そうしてこれも運命と覚悟を決め、一緒に閉じ込められている隻腕の男ーーシャンクスに向けて口を開く。

「シャンクス、おれは欠損フェチだ」
「へっ?」

あまり聞きなれないだろう単語が理解できずぽかんとした様子のシャンクスに「ついでにゲイだ」と追い打ちをかけると、数秒間固まったのちボッと顔を赤くして先日失ったばかりの左腕の肩口を押さえながら距離をとるようにじりじり後ずさった。
うん、まあ、こういう反応になるよな。
不謹慎極まりない話、ただでさえ好意を抱いていたシャンクスから計ったように片腕がなくなって欲を押さえるのが難しくなっていたからありがたいといえばありがたい。
おれは男が恋愛対象でシャンクスが好きな欠損フェチだが元々性欲が強い方ではないし、風呂上がりにパンツ一丁でうろつかれたり宴会のときに脱いで絡んできたりということさえなければ我慢するのはそう難しくないのだ。
船の主たる船長に気を張らせるのは申し訳ないけれど、これを機にシャンクスが少しだけ警戒心を持って生活してくれれば、それがお互いにとってのベストなんだと思う。

「お、開いたな。先に出るぞ」

いかに陽気で器のでかいシャンクスといえどもさすがにこの空気のなか一緒に仲良くは出ていけないだろう。
そう気を使って先に進みだすと後ろから誰かにクンと服の裾を掴まれた。
誰か、なんてこの部屋におれとシャンクスしかいない以上考えるまでもない。
しかしあんな性癖を暴露した以上しばらくは避けられることになると予想していたので、正直意外だ。

「おっ…おれでも、いいのか!?」
「シャンクス?」
「いや、あの、性癖って、だから、そういう気になんのは、お、おれ、にも…その…」

少しの驚きをもって振り返った先、時折声を裏返らせ、最後はもごもごと口ごもりながら俯くシャンクスに口を中途半端に開いたまま瞠目する。
髪と見分けがつかないくらい真っ赤な顔に、所在なさげにしているくせにおれの服を握りしめて離さない右手。
これは。

「……お前、服脱いで誘ってみても全然乗ってくんねェから、男は駄目なんだと思ってた」

部屋から出て全部夢だったなんてオチがついたら、おれは久々に泣くかもしれない。