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「キスかァ……海楼石持っててよかったなァ」

しみじみとした呟きに、サカズキの顔が苦虫でも噛み潰したかのようにぐぅっと歪んだ。
サカズキはおれといるとよくこんなふうに鼻に皺を寄せて黙り込むことがある。
このいかにもな不機嫌面が怒っているのではなく照れているだけだというのだから、おれの恋人は本当にわかりづらくて可愛らしい。

「あ、そうだ。せっかくだからさァ、今日はサカズキからキスしてみてくれよ」
「なっ……!なんでわしがそがァなことせにゃァならんのじゃ!」

にやつきながらの提案に目を見開き、威嚇するように怒鳴るサカズキに「だってこんな状況じゃなきゃ絶対してくれないだろう」と至極冷静な声で返すと一応積極性が足りなさすぎている自覚はあるのかバツが悪そうに引き結ばれる唇。
別に、恋人らしい行動の一つ一つに羞恥しマグマグしてしまうサカズキに多くを求めるつもりはない。
けれどやはりキスくらいはもっと気軽にできるようになりたいし慣れてほしいというのが本音のところだ。
幸いこの狭苦しい閉鎖空間にはおれが持ち込んだ海楼石も、『キスをしなければ部屋から出られない』というおあつらえむきの言い訳だってある。
サカズキが練習するにはもってこいの環境だろう。

「はい、サカズキ」

先日作ったばかりの海楼石の指輪を外して差し出すとサカズキが厳めしい、しかしどこか途方に暮れたような顔でゆっくりと手を伸ばし、それを受け取った。
きっと長丁場になるだろうから気長に待とう。
マグマみたいに真っ赤になったサカズキが羞恥に震えながら唇を掠め取れるまで、この部屋からは出られない。