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扉を開くための簡単なようでいて難しい条件に、キラーは仮面の下で渋面を作った。
自分が泣くのはまず無理だ。
どんなに感動的な話をされたところで多少しんみりする程度の感性しか持ち合わせていないし戦闘慣れしているせいで痛みにも強い。
捻り出せば涙の一粒ぐらいだせるかもしれないが、それでは『本気で泣く』という条件には合わないだろう。
しかしだからといって共に部屋に閉じ込められている相手をどうこうしようという気にはどうしてもなれなかった。
アルバはシャボンディで仲間になった元奴隷の男だ。
ヒューマンショップで酷い扱いを受けていたらしく最初はキラーの一挙手一投足に怯えていたのが最近になってようやく心を開いて笑いかけてくれるようになったというのに、穏やかな笑みに惹かれ始めた今になってまたあんなふうに怯えた目を向けられるなど考えたくもない。

「あの……」
「なんだ」
「あの、おれ、キラーのこと痛くしないで泣かせられるよ」

おずおずと話しかけてきたアルバにぶっきらぼうになり過ぎないよう声色を意識して返事をすると海賊にしては随分弱々しい、しかしどこか自信ありげな言葉が返ってきた。
もしかしたら少し嫌な思いするかもしれないけど、と眉を下げるアルバにすぐさま問題ないと願い出る。
どんな方法かは知らないがもしそれで本当にキラーが泣いて部屋から出られるのなら万々歳である。
ほっとしたようにはにかむアルバを見て、キラーの頬も自然と緩んだ。

「よかった。じゃあベッドに行こうか」
「……なに?」

エスコートでもするよう手を取ったアルバが戸惑うキラーに向けてにこりと微笑む。
その様子は相変わらず儚げなのに、細められた瞳は隠しようもないほどの獰猛な色を宿していた。