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「アルバ、どうしてこんなところに。病人は大人しく眠っていないと駄目じゃないか」
「病人はあんたのほうですよヴェルゴ中将」

おれはあんたの見舞いに来たんです、とフルーツの入ったバスケットを掲げたアルバに「そうだ病人はおれだった」と返すと呆れたように苦笑された。
少し熱は高いものの所詮はただの風邪なのだからわざわざ見舞いに来る必要なんてないのに、休暇を無駄にしてまで上官の看病をしたいというアルバは本当に物好きな男だ。
しかしそんなアルバのおかげで気づかぬうちに感じていたらしい寂しさがまぎれたのも確かである。
ありがとう、と礼を言う間にもぱたぱたと部屋の中を動いていたアルバがベッドで眠るヴェルゴの元に水で濡らしたタオルを運んできた。
額に乗せられるひやりとした布と、水に濡れて布と同じように冷えたアルバの指先。
どちらも間違いなく冷たいくせに妙に温かく感じるのは、いったいどういうわけなのだろうか。

「どうしたんですヴェルゴ中将、なにか面白いことでも?」

知らず知らず上がっていた口角を指摘され「病気や看病には縁がないから見ていて色々と勉強になる」と拙い言い訳をすると「なに言ってるんです、病気の妹さんがいるでしょうに」と返されてひやりとした。

「そうだ、おれには病気の妹がいるんだった」
「そうですよ。ヴェルゴ中将は優しいお兄さんです」

優しげに笑うアルバの声がズキズキと痛む頭に響く。
病気の妹も優しい兄であるヴェルゴ中将もいない。

アルバに愛され尊敬を受ける、そんな存在は、どこにもいない。