「でよォ、そいつが言うんだ、ご迷惑おかけして申し訳ありませんでしたって。こんなもんまで寄こしやがって、余計迷惑だってんだああクッソうめェ!」 満面の笑みで様々な種類の大量のケーキをもしゃもしゃと頬張りながら愚痴なのか何なのかわからない言葉を吐き続けるアルバにドレークは「そうか」とだけ返した。 これでいったい何度目の気のない返事か。 わざとそうしているにも関わらずアルバは部屋に来たときから変わらず上機嫌で部下に渡されたというケーキに舌鼓を打っているのだから苛立ちは増すばかりだ。 口は悪いが性格は豪放磊落で、なによりとても面倒見がいいアルバは多くの部下に慕われている。 人の上に立つ資質だけなら確実にドレークよりも数段高い。 だが恋人としては最低だ。 実際に恋人のおれがそう思うのだから間違いないとドレークはイライラしながら指を動かした。 少将になってから一層増えた書類仕事に辟易としている折、アルバのほうから部屋を訪ねてきてくれたことは本当に、舞い上がるほど嬉しかったけれどそこから先がいけない。 久方ぶりの二人きりのゆったりとした時間に他の人間から貰ったものをうまいうまいと褒めそやし、挙句その人間の話ばかりでつまらなさそうな恋人に気付きもしないなどデリカシーが欠如しているにもほどがある。 明日からまた紙束と格闘しなくちゃならない恋人より食い物か。 そんなにケーキが好きなら壁にでも話しかけながら一人で喰っていればいいんだ。 「ドレーク?」 「なんだ」 むっつりと口をへの字に曲げ恨みがましい目で白いクリームに乗った砂糖細工を睨むドレークにようやくなにかを感じたらしいアルバが不思議そうに声をかけた。 部屋に入ってきてすでに四十五分が経過しようとしている。 遅すぎだ、馬鹿アルバめ。 内心で悪態をつきながら視線をアルバに移すと、アルバはエサを詰め込んだネズミみたく頬を膨らませたまま小首を傾げていた。 いい年の男がやって許される動作ではない。 「さっきからどうしたドレーク、お前もさっさと喰えよ」 「喰うって、なにを」 「あァ?ケーキに決まってんだろうが」 荒んだ心で御座なりに放った言葉に対し「最近忙しくて疲れてんだろ」と続けられ、ドレークは不機嫌そうに腕組みをした状態のまま目を見開いて固まった。 いっそ恐竜になって残りのケーキを全部丸のみにしてやろうかと考えてはいたが、アルバから勧められるなど誰が思おうか。 アルバは基本的に些細なことは笑って許す気のいい男である。 ただ食い意地が張っているというのだろうか、食べ物、特に甘味に関しては驚くほど沸点が低い。 人の食事に手を出すような卑しい真似はしないけれど、己の食事を取られたら烈火のごとく怒るのだ。 かくいうドレークも一度、恋人になる以前間違えてアルバのデザートに口を付けてしまい大変な目にあったことがある。 そのアルバが、気にいった味のケーキを分け与える発言をするなど。 誰が。 「……おれが疲れてる、から、持ってきたのか?」 「おう、疲れてるときは甘いもんが一番だからなァ」 何を気にした様子もなくガハハと笑うアルバにドレークは唇が緩みそうになるのを堪えて腕を解いた。 アルバにそのつもりがなかろうと四十五分間ずっと蔑ろにされていたのはまぎれもない事実で、自分はそれについてまだ怒っているのだ。 簡単に喜んでやるつもりなんてない。 「ほら喰え!」 「むッ……」 「うまいだろう……ドレーク?」 繰り返す。喜んでやるつもりなんて、ない。 だからフォークで綺麗に崩されたケーキを口に突っ込まれて飲みこまないままに甘ったるいキスをするのは、喜びからではなくただの意趣返しなのである。 「はは、積極的だなァ」 アルバにはどうせ欠片も伝わっていないのだろうけど。 |