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隠し事の多いクロコダイルの体調の良し悪しを知るのは実のところ意外と難しいことではない。
普段好んで吸っている葉巻の本数が減り、咥えても数回煙を転がしただけでにじり消してしまい、そうして口での呼吸が多くなって唇がひび割れたらそれが本格的に風邪をひいた証拠だ。
ちなみに今のクロコダイルがまさしくその状態である。
プライドゆえか弱みを見せたくないからかあからさまに態度に出したりはしないけれど、風邪をひいているのはまず間違いないだろう。
疑り深いクロコダイルが薬を嫌うのはわからないでもない。
しかし人助けに生きがいを感じるような殊勝な性格でもないはずで、ならばせめてベッドに潜って大人しくしていればいいものを『砂の英雄』クロコダイルは今日も今日とてアラバスタで悪事を働く不遜な輩をとっちめて仮初の平和を守るのに忙しい。
自分で自分の首を絞めておいて苛々とかさついた唇に手をやるのだからこの男はアホだ。
そんなクロコダイルにやきもきして、可哀想だとか思ってしまうおれも。

「クロコダイル」

名前に反応して顔をあげたところで顎を掬い、ぐっと唇を重ねて食むように擦りつける。
もちろんただのキスではない。
自身の唇にたっぷり塗っておいた軟膏をクロコダイルの唇にお裾分けしているのだ。
せっかく用意してやっても毒を疑ってリップクリームを使おうとしないクロコダイルだが、こうしておれが一度つけて安全を確認したものであればつけられても嫌がることはない。
それどころか一度始めたらなかなか離れようとしないクロコダイルは、見た目ではわからずともやはり風邪で気が弱っているのだろう。
キスされて噛みつきも殴りもしない恋人なんて調子が狂ってしかたない。
おれにうつすなりなんなりして、さっさと治してほしいものだ。