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今でこそ勇敢でいて冷静沈着な戦士だと周囲に認識されているペルだが、昔はそれなりに血気盛んで経験の少ない若者特有の無茶をやらかすことも多かった。
ゆえに城付きの医師であるおれがベッドに転がったペルの面倒をみるのはそう珍しいことでもない。
が、しかし、それはあくまで怪我が原因のときの話だ。
こんなふうに風邪で臥せているころを見るのは長い付き合いの中でも初めてで、普段見慣れない弱々しい様子に不謹慎ながらむくむくと好奇心が湧いてくる。
静かに寝かせておくのが一番だと知りつつ、気の向くままに「大丈夫か」と声をかければ「はい、すみません」と虚ろながら優等生な声が返ってきた。
人間風邪をひくと人恋しくなって我儘になったりするものだが、どうやら弱っていてもペルがペルであることに変わりはないらしい。
なんだ、とがっかりしたあと、一体どんな返事を期待していたのかと自分自身に苦笑して席を立つ。
そうして「そうか、まあゆっくり休めよ」と今更なことを言って場を離れようとした瞬間、ペルが苦しげに息をつく唇から「まって」と言葉を零した。

「まって、まってください……いかないで、お願いします」
「どうした?やっぱり具合が悪いのか?」
「いいえ、大丈夫です。だから、お願いですからここに、そばにいてください」

安静にするほど酷くはないんです、本当に大丈夫だから、いかないで、ここにいて、と。
そんなペルらしからぬ必死な訴えに目を見開いた後ここ数年なかったほど深い笑みを浮かべてしまったおれは、もしかして医者失格なのだろうか。