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「十二年に一度のお前の年だ。せっかくだし何か我儘でも言ってみるか?」

互いに酌をし、酒のあてを摘みながらふと思いついたことを口にした。
今年はボルサリーノが『黄猿』と呼ばれるようになってから初めての申年。
だからなんだと言われればそれまでだが、なんとなく目出度い気もするし恋人を甘やかす口実には上出来だろう。

「我儘ねェ〜…言ったら叶えてくれんのかァい?」
「おれに叶えられる範囲で頼むぞ」

案外乗り気なボルサリーノが無茶振りしてこないように釘を刺し「でも余程じゃない限りは全力で叶えてやる」と笑って酒を啜る。
思えばおれは出会って以来一度もボルサリーノの我儘を聞いたことがなかった。
二人とも男だし分別のついた大人だから仕方ないといえば仕方ないが、それでも可愛い恋人なのだから一度くらい我儘を聞いて、叶えてみたい。
我儘な他人なぞクソくらえだが恋人は我儘すぎるくらいが丁度いい、なんて、それこそ我儘に違いないけれど。
そんなことを考えてぼんやりとしていると、斜め上の空中に視線をむけて唸っていたボルサリーノから「ん〜〜…………特に思いつかないねェ」と少しばかり期待外れな答えが返ってきた。
ないならないで指輪でも家でも強請ればいいものを、無駄なところで謙虚な奴である。

「つまらんなァ」
「まあ、次の申年までには考えとくよォ〜」

落胆するおれの酒杯にボルサリーノがゆっくりゆっくりと酒を継ぎ足す。
我儘一つに十二年とは、なんとも気の長いことだ。






申年@『十二年後も一緒にいて』っていうわかりにくい我儘を気づかないまま叶える主人公