そろそろランチタイムというのに違和感がでてくる時間帯、グッと伸びをして背骨を鳴らしながら階段を下りていく。 と、背後から突然おれの名前を呼ぶ声が聞こえた。 振り返った先に思い浮かべたのと相違ない姿を認め「サカズキ」と名を呼び返して軽く手を振る。 いつ見ても険しい恐ろしげな顔立ちだが、それでも普段と比べれば少しばかり緩んでいるのがわかって微笑ましい。 「なんじゃァ、こんな時間から食堂か」 「ああ、ちょっと立て込んでてな。一食くらい抜いてもいいかとも思ったんだが空きっ腹にコーヒーはさすがにキツい」 「……ほうか」 わざわざ寄ってきたくせにそれっきり黙り込み、離れていくでもなくじっとおれを睨むサカズキ。 どうしたのかと首をかしげていると、暫くの後サカズキが戦線布告でもしているかのような威圧的な声で「 今日は、わしもまだ食うちょらん」と現在の状況を報告してきた。 会話を続ける気があるのか怪しいくらいふてぶてしい態度だが、食事の時間が遅れることなどおれ以上に多忙なサカズキにとって別段珍しくもないはずだ。 にも関わらずそれを言うためだけにたっぷりと溜められた間の理由を考えるなら、これは。 「あー……じゃあ、食堂じゃなくて、外に行って食うか」 「……どこでも構やァせんわ」 「いや、構う。お前が構わなくてもおれが構う。近くに美味い店があるんだ。そこに行こう。店主と顔馴染みだから並ぶ心配もない。ちゃんと個室とって、二人っきりでゆっくり食おう」 たかが昼メシに何をそこまでと呆れながらも明らかに先ほどより一段顔が緩んだサカズキの手を取り歩き出す。 目玉が飛び出るほど珍しい恋人からのデートの誘い。 今回ばかりは次から次へと増えていった面倒な書類の山に感謝してもいいような、そんな気がした。 |