ベラミーは尊敬するドフラミンゴのこととなると途端に狡猾なハイエナから従順な犬に様変わりする。 目をキラキラさせて満面に喜色を浮かべ、あるはずもない尻尾を勢いよく振りながら彼の言葉を待つ様はまさに忠犬と言うに相応しい。 残虐非道なハイエナのベラミーが従うのは悪のカリスマたるドンキホーテ・ドフラミンゴただ一人。 仲間内ですらそんな認識が広まった今となっては、かつて、ベラミーがドフラミンゴに出会うまでその視線の先にいたのがいちクルーにすぎないおれだったなんてこと誰も信じやしないだろう。 おれにはベラミーを感服せしめるような志もねじ伏せるだけの力もない。 ベラミーより少し先に生まれた幼馴染で、幼い頃のベラミーにとってはそれなりに良き年長者であったという、たったそれだけの薄っぺらい間柄だ。 にも関わらずおれがドフラミンゴに対して身の程知らずな嫉妬を抱いているのは、ベラミーを好いているからに他ならなかった。 男同士、結ばれる可能性なんてないに等しいのだからせめて生まれ持った立場を守りたかったのに。 ここ数年のおれは鬱屈とした気持ちのまま「ドフラミンゴに認められるために」と頑張るベラミーの斜め後ろを黙ってついく木偶人形と化している。 もうそろそろいい加減こんな無様な恋の残骸には見切りをつけて新しい人生を楽しむべきなのかもしれない。 幸いというか、悲しいことにおれには船でのさしたる役割もないため抜けたとしても航海に大した支障はないのだ。 元々向いてなかった海賊業からは足を洗って適当な島で適当に土産物屋でも営んで、平凡なおれを愛してくれるような垢抜けない娘と結婚し、家庭を築き、そしてーー 「…………アルバ?」 「ん?どうした、ベラミー」 急に振り返っておれの姿を確認したベラミーにいつも通りの穏やかな微笑みを返すと、ベラミーは数秒探るようにこちらを見つめた後「なんでもねェ」と前に向き直った。 その場しのぎの延命措置に、それでも生かされた恋心に苦笑がもれる。 妙なところで察しのいいベラミーがこうして不安げに後ろを振り返るのを止めたときこそ、おれの全てが終わり、そして始まるのだ。 |