サカズキは一見直情的に見えて存外思慮深く頭の切れる男だ。 そうでなければ化け物ぞろいの海軍でのし上がっていくことなど不可能だし、彼の望むように効率よく海の屑を屠ることもできないのだから当然と言えば当然の事実である。 サカズキは頭がいい。 しかし同時に、海軍でのし上がるのにも海の屑を屠るのにも必要ない、サカズキにとって無価値な情報に関しては悉く疎い。 それはときとしておれを大いに困惑させ、あるいは楽しませてくれるわけだが――ああつまり何が言いたいかっていうと、こいつたぶんディープキスのやり方勘違いしてるよなァってことだ。 そういえば付き合うよりずっと前にキスで女の子を腰砕けにさせたって自慢話をして法螺吹き扱いされたことがあった。 あのときはいくら言っても鼻で笑って返すサカズキに憤りを感じたものだが、サカズキの中のディープキスがこれならキスで腰砕けになるなんて、そりゃあ、信じられないのもしかたないだろう。 おれの唇に吸い付き、舌で舐め、時折はむはむと甘噛みしてはこちらの反応を窺うサカズキはとても可愛らしいがしかし、残念ながらその可愛さは飼い主にじゃれつく犬の可愛さである。 まったく、焦れったいったらない。 「……アルバ?」 ちゅる、と唇についた唾液を吸って顔を離したサカズキにどうしたものかと思案する。 この厳めしい男の可愛らしい勘違いをもう少しだけこのままにしておきたい気持ち半分、むかし法螺吹き扱いされた仕返しに今すぐ本当のキスを教えて、どろどろになるまで気持ちよくしてやりたい気持ち半分。 どうしてやろうかと心の天秤を揺れ動かしながら、おれはサカズキの濡れた唇に指を添えた。 |