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ダズは自称『クロコダイルの恋人』であるアルバという男が本当のところいったい何者であるのかを知らない。
一度アルバに声をかけられて言葉を返そうとした際クロコダイルから「あれと関わるな」とわかりやすくクギを刺されているし、わざわざ探るほど興味もないので当然のことだ。
だからダズはインペルダウンを出てからというもの行く先々に現れてはクロコダイルに到底似合わない甘い言葉を並べ立てては顔を顰められ時折手渡す貢物を悉く砂に変えられているアルバのことをクロコダイルと長い付き合いがあるどうしようもなく頭のおかしいストーカーなのだろうと、そう思っていた。

ダズはアルバのことを知らない。
ただ、世の中には気づくべきものと気づいてはならないものがあることをダズは知っている。

アルバが長い間姿を見せないとクロコダイルの機嫌がどんどん悪くなっていくことだとか、どれほどクロコダイルに対して侮辱となりうる言葉を並べ立てても眉間の皺が深まるばかりで一向に殺される気配がないことだとか、アルバからの貢物を砂に変えた後クロコダイルがそれを一つまみ手に隠し持ってその場を立ち去ることだとか、ダズに「関わるな」と言ったクロコダイルの声にほんの少し、ごく僅かの――嫉妬の色が覗いていたことだとか。
そういったものは、間違いなく後者だ。
気づいてしまえば確実にろくなことにならない。
だからアルバという男を、アルバとクロコダイルの関係を、ダズは知らない。
今日も今日とて何も知らないダズの目には頭のおかしいストーカーとストーカーに付き纏われて辟易とした様子のクロコダイルが映っているだけだ。

「やあ久しぶりクロコダイル随分と間を開けてしまってすまなかったねきみに会えなくてとても寂しかったよまた少し髪が伸びたか隙なく整えているのも素敵だが乱れていると気怠げで一層色っぽいなよく似合ってるおれはきみの黒髪が大好きなんだ」
「……言いたいことはそれだけか?」
「まさか、一番大切なことがまだだ!」

愛してるよ、クロコダイル。
そんな言葉が耳に入ってくる前にダズはさっさと目を伏せた。
直後、愛の囁きを受けたクロコダイルの表情を目撃してしまったのであろう察しの悪い者が数名、砂に斬られて宙を舞う。

ダズは知っている。
ーー知らないというのは、ときとして素晴らしく幸せなことなのだと。