コラソンを呼んでこいと若に言われて部屋を訪ねたところ、コラソンはベッドの上――ではなく一人がけのソファに背中を預けテーブルに足を投げ出した状態で爆睡していた。 若といいコラソンといいどうしてすぐ傍にある寝床を無視してこんな体勢で眠ろうと思えるのか。 船のハンモックすら拒否して固定式ベッドを自費導入したベッド愛好家のおれからすれば心底理解できない所業である。 「おいコラソン起きろ。若が呼んでるぞ」 呆れながら肩を揺さぶって声をかけると見事な金色をした睫毛がふるりと震え、ゆっくりと瞼が開いた。 ぼんやりした様子のコラソンが半眼でおれの姿を捉え、数秒の静止ののちパクパクと口を開く。 「 、………?」 「……なんだ、何か言いたいことでもあるのか?」 まだ寝ぼけているのか、声が出ないことが不思議だとでも言うように首を傾げるコラソンにテーブルの上にあったペンと紙を手渡す。 と、なるほどといった様子でこくりと頷き何事かを紙に書いたコラソンがそれをグイッとおれに押し付けてきた。 そうしてまた沈み込むように眠りに落ちたコラソンに困惑し、メモに書かれた『何か』に眉を寄せる。 紙に『何か』が書かれているのは間違いない。 しかしそれが一体『何』なのか、まったくわからないのだ。 「『む』……いや、『よ』?『す』?」 普段から達筆とは言い難いコラソンが寝ぼけて書いたミミズののたくったような文字は最早凡人には理解の及ばない一種の芸術作品のようだった。 たった数文字であろう暗号解読は結局失敗に終わり、数分後ここに来た目的を思い出して文字通り叩き起こしたコラソンに答えを聞いたところ真っ赤になって紙を奪い取られてしまったから何が書かれていたかは永遠に闇の中だ。 とりあえず連れて行くのが遅くなったのは絶対におれのせいじゃないから、怒るならコラソンだけにしてください、若。 |