おれには一つ、誰にも教えていない秘密があった。 周囲には下戸で知られているが、実際のところ酒には滅法強いのである。 まったく酔わないというわけではないがいくら飲んでも顔が赤くなる以外なにも変化が起きず、当然気が大きくなることもなければ眠気を催すこともない。 そんな体質を周囲に隠しているのに大した理由はなかった。 ただ素面のまま酔っ払いの相手をするのも潰れた連中の後処理をするも面倒で、ある程度飲んだら即行寝たふりというのが酒の席でのお約束になっただけだ。 毎度毎度繰り返していたらありがたいことに一度寝ると殴っても起きない下戸認定されたため否定せずに受け入れた。 ーーそれがこんな事態を招いているのだから人生って面白い。 「おい、アルバ」 寝たか、と数度確認を繰り返したあと瞼に遮られた暗闇の向こうで気配が動いた。 同性に懸想する様など想像もつかない男がおれを呼ぶ声は、どこか弱々しく熱っぽく切なげである。 おれよりずっと強くてふてぶてしいくせにどんな顔でそんな甘えた声を出しているのかと不思議に思うものの、お前が恋しいと訴えかけるように名前を呼ばれて悪い気はしない。 こいつはおれが好きなのだ。 それは理性で恋情を抑えきれず、酒で意識をなくしたおれの唇を奪って己の慰めにするほどに。 「アルバ……アルバ、」 初めて二人きりで酒を飲んだ日は掠めるだけだった。 それが二度目でしっかり重なり、三度目でぺろりと舐められ、四度目以降は唇を食まれ歯列をなぞられ。 なら、わざと口を開いていて寝ていたらこいつはどんな反応をするのだろうか。 そう考えて馬鹿みたいに口を半開きにし、今日のキスを楽しみに待っていると息のかかるほどの近い距離からゴクリと唾を飲む音が聞こえた。 そしてしばらくの後、緊張で震えていた呼吸が止むと長く伸ばされた舌が口の中に入ってくる。 口内に侵入を果たした舌は、しかしそれ以上動こうとはしない。 どうやら快楽ではなく粘膜の接触だけを求めているらしい、稚拙という表現すら烏滸がましいディープキスにじわじわと笑いがこみあげてきた。 ああ、今こそ目を覚ます頃合いだ。 何をしていたのか問い詰めて絶望するまで突き放したら、あとでたっぷり可愛がってやろう。 |