一体誰が最初に言い出したのか、親愛なるオヤジにラブレターを、だなんてナースたちならともかく筋骨隆々の野郎どもが参加していいはずのないイベントに家族全員が本気を出した結果たった一日にしてオヤジの部屋はおびただしい数の手紙で埋め尽くされた。 強い波を越えるたび床がギシギシと嫌な音を立てて軋む。 このままでは如何に頑丈なモビーといえど床が抜けてしまうのではないか。 そう不安を募らせていたところへもってきて次はオヤジの一声だ。 「男なら直接言いにこい!アホンダラァ!」 さすがオヤジ格好いい思うと同時に、なに言ってんだこの人と目を剥いた。 ただでさえ加熱しているラブレター戦争にそんな油を注いだら間違いなく大変なことになるだろう。 そして数秒後。 案の定というべきか、大海原に響き渡った熱狂的な怒号と絶叫に海軍の監視船を盗聴している電伝虫から「何があった!」「戦争でも始まるのか!?」と聞こえてきて、おれは一人「お騒がせして申し訳ない」とひっそり頭を下げたのだった。 *** 「で、なんでオメェは手紙を寄越さなかった」 「手紙…って、ラブレター?え、オヤジまさかもうあれ全部読んだのか!?」 「グラララ、そんなわけねェだろうが。探した中に見当たらなかったから聞いてるだけだ」 夜、周囲が落ち着いてから訪れたオヤジの部屋。 暗におれを特別扱いしてくれたのだと聞かされてじわりと顔が熱くなる。 確かにおれは手紙を書かなかった。 というか、書けなかった。 他の奴らにせっつかれてペンを持ったものの、ペン先につけたインクは乾くばかりで一向に文字にならなかったのだ。 「でも、だからちゃんと直接言いに来ただろ?」 「おせェよ馬鹿息子……年寄りを待たせるんじゃねェ」 身を屈めたオヤジに背伸びしてキスをする。 愛という感情を言葉にするのはとても難しい。 とりあえずはオヤジがおれの行動の遅さにヤキモキしたのと同じ以上におれはオヤジに群がる兄弟たちに嫉妬したのだという話から始めようか。 |