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「っ……なんじゃァ?鬱陶しい」
「あ、サカズキちょ、待て!高かったんだからやめろ!」

真っ白なそれを海賊に網をかけて捕縛するときの要領で頭から被せると寝起きの不意を狙われたサカズキが即座に左手をマグマに変えて振り払おうとした。
慌てて制止をかけたもののそう簡単に攻撃が止まるはずもない。
焼き焦がされてできた大きな穴から不機嫌なサカズキとバッチリ目があってしまったおれは思わず膝から崩れ落ちた。
酷い。
海楼石を用意していなかった自分のミスとはいえこれは酷い。

「なんの真似じゃァ、アルバ……アルバ?」
「…………あ……いや……ごめんサカズキ、驚かせて悪かった」

怪訝な声に現実に引き戻され這うようにしてサカズキに近づく。
サプライズの失敗は悲しいが、それについてサカズキを責めるのはお門違いだ。
無残な姿になってしまった薄布を持ち上げ謝罪もかねて軽く口づけると、どこか所在なさげなサカズキの瞳が揺れた。
さっきおれが叫んだ言葉を思い出して何か悪いことをしてしまったのではと不安になったのだろう。
悪いのは自己満足に付き合わせたおれの方なのに。

「部下の結婚式に出席したときに、誓いのキスってあるだろ?あれが、まあなんというか、いいなァと思ったんだ」

苦笑しながら純白の布――ウエディングベールを外して手渡すと、施された細やかな刺繍やキラキラ輝く硝子細工を見たサカズキが小さく目を見開いた。
ドレスはさすがにサイズがないからベールだけでも一番高いのを買ったんだと囁いてもう一度きつく閉じられた唇にキスをする。
焦げたベールを前にしばらく沈黙した後「くだらん」と呟いてそっぽを向いたサカズキ。
その瞳が微かに潤んでいたことは、きっと指摘しない方がいいんだろう。