はじめてアルバを見たのはバラティエ開店直後のことだ。 現在の年齢から逆算すれば当時すでに二十歳を迎えた立派な青年であったはずのアルバだったが、サンジにはその年齢を推し量ることがまったくできなかった。 ぼさぼさで艶のない髪、血色の悪い肌。 そして少し前までの己を思わせるような、長期間まともな食事をとっていないのが一目でわかる痩せこけた体躯。 そんなつつけば死んでしまいそうな子供にも老人にも見えるような風体の男は、サンジの見ている前でぽたぽたと透明な涙を落としながらオーナーであるゼフに跪いた。 「せんちょう」 酷く掠れた聞き取り辛い声は確かにそう言葉を紡ぎ、その一言でサンジは全てを察した。 この男はゼフを探していたのだ。 恐らくは、あの嵐の日。 『赫足のゼフ』ひきいるクック海賊団が壊滅したあの日からずっと。 「せんちょう」 「なんだアルバ」 「せんちょう、あし、が」 「両手さえありゃあ問題ねェだろう」 「せんちょう」 「船長じゃねェ、『オーナー』だ」 おーなー。 カサカサの唇がその単語を形作り、そしてゆっくりと弧を描いた。 「オーナー、おれを、あなたのそばに。ここで働かせてください」 そうしてアルバは後から後からあふれ出る涙を拭うこともなく、生気に満ちた表情でゼフの義足に口づけた。 役者は美しさの欠片もない男二人だというのにその光景がまるでオービット号に飾ってあった馬鹿馬鹿しくなるくらいの値段がついた絵みたいで、サンジは思わず熱くなった頬を両手で擦った。 武器である足を失ったゼフと、ゼフの下で海賊をやっていたアルバ。 全ての責任を背負いこむほど馬鹿ではないが、やはり彼らの海賊生命を奪ったのは少なからず自分にも原因があるという負い目があって、その二人が満ち足りた様子であることに感動したのだとこの時のサンジはそう思っていた。 だからこそ口づけられた義足でもってアルバの顔面を蹴り飛ばし「ここはレストランだだれがお前みたいな不器用な人間を雇うか」と言い放ったゼフの言葉に驚愕したし、蹴られたことを気にすることもなく「金勘定なら得意です。経営について一生懸命勉強します」とゼフに緩んだ笑みを向けるアルバに怒りを感じたのだとも。 あれから少年は青年になり、青年はおっさんになった。 美しいレディーと恋に落ちるたび脳裏をちらつく光景が金に汚く生活全般に無頓着で壊滅的に不器用な男の幸せそうな泣き顔である理由については、未だ認めていない。 |