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付き合ってから今までキスもデートもセックスも一切自分から誘ってこないキッドだが、別に淡白というわけではなくプライドだか羞恥だかが邪魔して言い出せないだけだということがこのたび発覚した。
キッカケはおれが街でしこたま買い込んだチョコレートをキッドと一緒に食べたときのこと。
甘いものが嫌いなくせに「寄越せ」と手を伸ばし、眉間に皺を寄せながらチョコレートを齧るキッドに「いまキスしたら同じ味がするんだろうな」と言ってみたら途端に真っ赤になって無言で俯きやがったのである。
あの、粗野で短気で横暴なキッドが。
殴りも罵りも笑いもせず。
それでおれは理解した。
考えてみればやたらおれと同じ料理を食いたがったり飲んでいる酒を横取りしてくるのはきまって長らくキスをしていないときだ。
キスしたくても自分からはできなくて、せめて口の中を同じ味で満たしたかったんだろう。
なんて可愛いんだキッド!
そう思うと同時にむくむくと意地悪な気持ちが湧いてきたおれを咎める奴はいないに違いない。
常々可愛くないと不満に思っていた恋人の信じられないくらい可愛いところをみつけてしまったらいじりたくなるのは当然のことなのだ。

***

「……おい、おれにも煙草寄越せ」
「えー?キッド煙草吸わないじゃん」
「いまは吸いたい気分なんだ」
「へェ、珍しい」

苛々した様子で手を伸ばしてくるキッドの前でこれ見よがしに煙草の箱を傾けて「ごめんこれ最後の一本だった」と笑ってみせる。
最近キスをしていない。
食事はみんなで同じものを食べているが、酒も飲まないし大好きなチョコレートだって我慢していた。
さぞかし不満が溜まっていることだろう。
こんなふうに、マトモに吸えもしない煙草に手を出すくらいには。

「他の銘柄なら部屋にあるけど」
「……いらねェよ!」

クソ、と汚い言葉を吐いて背を向けたキッドをニヤニヤした顔で見送ってポケットから隠していた煙草を取り出す。
素直になれない可愛い恋人が我慢の限界を迎えるまで、あと。