「お、いロー……もういいだろ?そろそろ心臓返してくれ」 「まだ、だ」 濡れた舌先で擽られ、見せつけるように唇で食まれて奪われた心臓がバクバクと大きく跳ねた。 いつの日だったか『おまじない』などというローにはまるっきり似合わない可愛らしい名前で始まったこの行為はおれを酷く落ち着かなくさせる。 手の中で強まった鼓動を感じたのかそれはそれは楽しそうに目を細めるロー。 悪い顔だ。 獲物を甚振る猫が人の姿をしていたら、きっとこんな。 「っ……う、」 指摘する間も無く四角く切り取られた肉の表面に軽く歯を当てられて胸に何とも言えない痛みが走った。 冷静に考えれば非常にグロテスクでいつ心臓を潰されるかという恐怖に慄くべき状況なのに、ローの妙な色気がそれを許さない。 「なァ、どうだ。わかったか?」 「ハッ……わかるって、なにが」 「おれがお前の心臓にかけてる『おまじない』」 わからないならわかるまで毎日続ける、なんて気長なことを言いながら、ちゅ、ちゅ、と寄せられる唇は痛くて擽ったくてむず痒い。 まるで恋でもしてるみたいだ。 そうぼんやり考えたおれを、ローは相変わらず笑って見つめていた。 |