「いやー、昨日のアルバは本当に可愛かったなァ。昔みたいに兄ちゃん兄ちゃんってベタベタ懐いてきてさァ」 昨夜のアルバの失敗が余程お気に召したのか、朝からもう何度目になるかわからない話を聞かせながら楽しそうに鍋を混ぜているサッチをじとりと睨みつける。 無理やり飲ませてきたのはサッチなのに、性格の悪い男だ。 これが他の奴なら隊長だとか年上だとか関係なくぶん殴っているところだけれど、サッチは拳を握りした瞬間アルバの作った料理を味見してうまいうまいと褒めてくるものだから気がそれてしまって怒るに怒れない。 これが無意識なら可愛げもあるがサッチの場合はわざとである。 まだ幼さの残る時分、料理のいろはをサッチからつきっきりで教えてもらったアルバが手放しに褒められるのに弱いと知っていてやっているのだ。 あざとい。 実にあざとい。 「ほら、昨日みたいに兄ちゃん好きーって言ってみ?」 「はいはい好き好き、愛してるよ。おれサッチだーいすき」 「真剣さが足りねェ、やり直し!」 真剣に言ったら逃げるくせに。 兄と呼ばなくなった理由も可愛いと言われて苦く思う理由も、それでもたまに失敗を装って可愛い弟を演じる理由も、これっぽっちも知らないくせに。 はあ、と吐いた息にサッチが不満げに眉を寄せる。 そんな仕草すら可愛いと思ってしまうあたり、おれはもう色々と手遅れだ。 |