「……おいアルバ、まだ終わらねェのか?」 「もうちょっとだから大人しくしててください」 「じゃあせめてこの体勢をなんとか」 「お頭、動かないで」 もぞもぞ身じろぎ少しずつ身体を遠ざけていくお頭をグッと引き寄せる。 うう、と情けない呻き声をあげて足の間に収まったお頭の肩に顎を置き、腹に手を回して作業を再開した。 男が男を背後から抱きかかえるという絵面ははたから見ると寒いことこの上ないだろうが、どうせ今は二人きりなのだ。 気にしたら負けである。 隻腕になってほどなくの頃、爪切りを持って途方に暮れたように佇むお頭に声をかけたときはここまで熱中するなど考えもしなかった。 しかし分厚く所々変形しひび割れて尚美しい桜貝のような色合いをしているお頭の爪を手ずから整える時間は予想外に心地よく、今では島に上陸するたび口説いた女にネイルケアの方法を聞きだしているし、爪の表面を綺麗にするための道具や乾燥を防ぐためのオイルだって全て自腹で揃えるかほどのめり込んでいる。 錆びた刀を研ぐように、あるいは宝石の原石を磨くように自分の手が世界でも有数の強者の一部を変えていく。 それだけでもゾクゾクするのに爪を整える間は普段太陽みたいに明るいお頭がいつになく弱り切った様子を見せるものだから、本当にたまらない。 「アルバー……まだかー……」 「まだ、あと少し」 髪と同色に染まった耳にそう囁いてツヤツヤと輝く爪を指でなぞる。 「あと少し」がその通りにならないのは、いわゆるお約束というやつだ。 |