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「では今のところ問題はないんだな?」
「ああ、思ったより順調だよ。今のところは、ね」

わざとらしく含んだ言い方をするのはなにもふざけているからではない。
確かに今のところ目立った問題はないものの、今回の護衛対象を思えばいつ何が起きてもおかしくないのだ。
なにせ相手は同性愛嗜好のある美形好きの天竜人。
いかに本部中将と言えど目をつけられれば一巻の終わりである。

「万が一のことがあっても冷静にな、センゴク」
「……不吉なことを言うんじゃない」

万が一などあってたまるかと手の中の電伝虫の表情が歪む。
受話器の向こうのセンゴクを思い浮かべて頬を緩めると、呆れと苛立ちの混じった声でそれを咎められた。
どうやらセンゴク側の電伝虫がかなりだらしない顔をしているらしい。

「こんなときに何をにやけとるんだお前は」
「いやァ、心配性な恋人が可愛くてつい」
「な!ぅ〜〜ッ心配、して悪いか……!」
「まさか。嬉しいに決まってる」

ありがとう、と微笑むと受話器から地を這うような唸り声が聞こえてきた。
電伝虫はきっとさっきより増してだらしなくニヤついているだろうが、慣れないながらもしっかりと愛情を伝えてくれるセンゴクが愛しくてたまらないのだから仕方がない。
これを表に出すなというのは無理な話だ。

「……さっさと終わらせて帰ってこい」
「そうだね。土産に煎餅でも買って帰ろうか」
「いらん」

土産なんていいから、早く帰れ。
ほとんど聞き取れない小さな声のあと一瞬の間を置いて乱暴に遮断された通信に目を瞠る。
自分で言っておいて照れたのだろう。
きっと今頃一人きりの部屋で真っ赤になっているに違いない。

「……かなわないなァ、まったく」

あんな言い方卑怯すぎる。
今すぐにでも会いたくなってしまったではないか。
帰ったら蜜月だ。
嫌だと言っても絶対許さない。
ベッドから出られると思うなよセンゴクめ。

暗く狭い船室のなか赤くなった頬を擦ってぶつぶつと独り言ちる。
そしてこの任務、必ず迅速に成功させなければと一層決意を固めたのだった。