サカズキの機嫌が悪い。 周囲を取り巻く空気は重々しく、チリチリと肌を焼く感覚が生命の危機を本能に訴える。 これが怒りではなく不安や焦り、悲しみの混じった慰撫すべき感情だと理解できるのは長年の経験と愛のなせる業だ。 現におれの執務室まで助けを求めに来たサカズキの部下たちは皆真っ青な顔で神に縋るような目を向けてきた。 慰めてやらねばならないときほど威圧感が増すとは本当に難儀な男である。 まァ、おれからすればそういうところも可愛いんだけど。 「なあサカズキ、どうした?なにかあったのか?」 お願いだからなんとかしてくださいと頼まれたのをいいことに二人きりになった部屋でサカズキの顔の皺を数えるようにキスを落とす。 昔なら即突き飛ばされてマグマグだったこの行為にも今ではすっかり慣れたもので、じっと受け入れるサカズキに能力の暴走を耐えているという感じはない。 そうして暫くリップ音だけが続いた後、少し距離をつくって様子を窺うとサカズキが不快そうに顔を歪めた。 「……お前が」 「おれが?」 「…………毎年、朝に渡すもんを寄越さんけェ、気が散っただけじゃ」 鬱陶しい、といったようにおれを押しのけ視線を逸らしたサカズキの耳がほんのりと赤くなっている。 毎年朝にっていうのはもしかしなくてもアレのことだろう。 今日は朝少しバタバタしたから後回しになってしまったが、同棲するようになってからは遠征のとき以外ずっと朝一番に渡してたからなァ。 心配させたお詫びは夜にするよと笑ったらサカズキの纏う熱がわかりやすく部屋の温度を上げた。 おれの恋人は本当にかわいらしい。 |