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「#幼馴染」のBL小説を読む
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激戦の最中誤って海に転落し、一月後ようやく帰ってきた海軍本部ではおれの執務室が片付けられようとしていた。
あと数日遅ければ書類上完全に幽霊扱いされるところだったというから恐ろしい話である。
謝罪兼挨拶周りと既に他の人間に引き継がれていた仕事を返してもらう作業から解放され安堵の息を漏らす。
やれやれと呟き肩を叩いていると、こちらをじっと見つめる視線に気がついた。
部屋には自分を含めて二人しか存在しないため視線の主は確認するまでもない。
嫌われているかは別として少なくとも好かれてはいないだろうという常の予想に反し、唯一最後まで生存を信じて捜索を続けてくれたおれの部下だ。

「……サカズキ、コーヒーをお願いしてもいいか?」

擽ったさに微笑みながらそう言うとサカズキはいつも通り顔を顰めながらコーヒーを淹れるため部屋をあとにした。
時間をかけず適当に淹れていることが丸わかりなサカズキのコーヒーはお世辞にも美味いといえるものではない。
それでも態度を改めるよう叱咤しないのは不味いコーヒーを文句なく飲み切って礼を言うたび居た堪れない様子で目を逸らすサカズキが可愛らしいからに他ならなかった。
意地が悪いと思われるかもしれないが、親についた些細な嘘で罪悪感に苛まれる少年のようなその表情は味気ない書類を捌く合間の密かな癒しだ。
いずれサカズキがおれを追い抜いて上に立つそのときまで、この穏やかな日々が続けばいい。
そんな小さな願いゆえにこの後サカズキが時間をかけて淹れてきた普通に美味いコーヒーに困惑し、結果深く傷つけてしまうことになるのだから人生とは実にままならないものである。