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「ガープ、クザンのことだが……そろそろ戻してやったらどうだ」

半年ほど前に突然おれの部隊に異動させられてきたクザンは少々だらしない部分はあるものの必要なところに手は抜かないし任務に対する理解力も遂行能力も高い優秀な男だ。
何をやらかしておれのようなうだつのあがらないお飾り中将の部隊に飛ばされたのかは知らないが、今のクザンを見ていると狭い水槽に入れられた錦鯉を見ているようで可哀想になってくる。
ああいう手合いはガープくらい広い器でないとその才能を活かせない、おれのところにいても宝の持ち腐れになるだけだと説得を試みるとガープはキョトリと目を瞬かせ、わざとらしく首を傾げた。

「クザンが戻りたいと言ったか?」
「いいや、だが明らかにお前のことを慕ってるだろう。あいつが顔をあわせるたびにカッコいいだの憧れるだの言うのは海軍本部でお前だけだぞ」

ちなみにおれは世辞の一つも貰ったことがないと暴露するとガープが豪快に笑いだした。
自分で言い出したこととはいえそんなに笑われるとは思っていなかったので少なからず落ち込んだが、なにはともあれ話の続きだ。
命がけの仕事なのだから尊敬できる上司のもとで働きたいと願うのは部下として当然のことだしガープの滅茶苦茶さについていけるだけの能力を持っている男を燻らせておくなんて勿体無いにもほどがある。
「だから次の査定のときにでもクザンをそっちに」と切り出した瞬間勢いよく扉が開け放たれ、部屋に強烈な冷気が流れこんできた。

「クザン……?」

まるでこの世の終わりといった様相でパキパキと辺りを凍らせていくクザン。
その理由を知るのは、まだまだ先のこと。