前世の記憶があるというよりも前世からそのまま生が続いているといったほうが正しいだろう。 家に置いてあった地図によっていま生きているのが好んでいた漫画の世界だと知ったとき、おれは原作で起こる悲劇を食い止めようと海軍でのし上がることを決意した。 今にして思えばおれは、この世界を虚構のものだと錯覚していたのだ。 海兵としてのおれの実力は人より頭一つ分優秀で、上へいくため如何なる努力だって惜しまなかった。 けれどどれだけ頑張ったところでおれ一人の働きでどうこうできるほどこの世界は甘くない。 同期の仲間は白ひげ傘下の海賊との交戦で命を落とした。 気まぐれに貧しい村に食料を恵んだと思えば次の島では女子供を凌辱する海賊団がいた。 平和に生きる島民は魚人を見れば石を投げ、魚人が報復すれば海軍がそれを殺す。 賄賂で海賊とつながる海兵、摘発しようとして昇進の道を断たれる海兵。 正義も悪もない圧倒的な現実。 おれにはもはや原作で起きたことが本当に悲劇なのか、自分がどう生きたいのかわからなくなっていた。 そして大航海時代が幕を開け、雑念を払おうと一心不乱に働き続けていたある日。 おれの昇進は事実上少将で打ち止めであるということが告げられ、おれの心はそのときから折れたままだ。 |