「好きだなァ」 ぽろり、という擬音がピッタリだった。 全身に回ったアルコールのせいか酌のために近づいた触れ合うほどの距離のせいか、完全に無意識に口から洩れた言葉に「しまった」と思うと同時、キャプテンの顔がギシリと強張る。 補給に寄った島で男娼と連れ立って宿に入るところを目撃されてしまったのはつい先日のことだ。 引き締まったしなやかな体つきと挑発するような不敵な笑みに惹かれて相場よりかなり高い金で買った黒髪の男とは結局何もせずその場でさよならするはめになったのだが、言い訳を考えながら慌てて船に戻ったおれに船長はなにも聞かなかった。 目を見開いて踵を返した様からして思うところはあるはずだが、島で男を買うというのは裏を返せば仲間に手は出していないということ。 航海のうえで害はないと見逃されたんだろう。 そう、見逃してもらっただけだ。 表だって軽蔑されなかっただけでも奇跡なのにわざわざ自分から臭わせるような発言をするなんて、馬鹿かおれは。 「……それは、どういう、」 「えーと、あー……色々と、深く追及しないで放っておいてくれるヤサシイとことか!ね!やっぱ器が広いっつーか、キャプテンについてきてよかったなァって!」 ついに破られた沈黙に言葉を被せて捲し立てた。 誤魔化さなければ。 その一心で、お世辞にもならないような安っぽい賞賛を紡ぐ。 「キャプテン好きです人間として!」 笑いながらそう言って勢いで流してしまおうとした瞬間キャプテンに頬っ面をぶん殴られた。 脳みそを揺らす痛みよりキャプテンの表情が衝撃的過ぎて唖然としてしまう。 シンとなった宴の場から荒々しく去っていく後姿。 悔しいみたいな、悲しいみたいな。 なんであんたがそんな顔するんですか、キャプテン。 |