「遅せェ」 「ん……なにがだい?」 「喰うのがだ。メシに何分かかってやがる、ちまちまちまちま喰いやがって」 うっわウザい。 勝手に相席してくるのはまだしも先に飯を喰い終わった挙句目の前で葉巻ふかしながら人の食事の仕方にケチをつけてくるとか何様だこいつ。 午後の仕事には充分間に合うんだから問題ないだろ僕は食事は一人でゆっくり摂りたい派なんだ邪魔すんな。 ……とまァ、少し前までならそんなふうに心の中で罵声を浴びせかけていたところだが、苛々したような眉間の皺もいつもより消費の早い二本の葉巻もその理由を知ってしまえばかわいいものである。 スローペースで口元に運んでいたスプーンを止めて体ごと向き直るとスモーカーが僅かに身じろいだ。 思わず目を逸らしたくなるような強面に反して期待と不安に揺れる瞳が愛らしい。 「はい」 「……なんだ」 「スモーカーが食べさせてくれ」 「あァ!?」 ゆっくり食べたい僕と、早く食事を終えて残りの休み時間僕に構われたいスモーカー。 これで双方解決と言わんばかりにスプーンを差し出すとしばらくぶるぶると震えていたスモーカーは真っ赤になって走り去っていった。 その背を見ながらぐっと伸びをし、体勢を元に戻す。 「あー……これでようやく寛げるな」 スモーカーが逃げればそれでよし、逃げないであーんしてくれればそれはそれでよし。 可愛い恋人ができたことに感謝しつつ、僕は穏やかな日差しに目を細めて食事を再開したのだった。 |