*微カニバ 「スモーカーくん、葉巻一本頂戴?」 食堂のテーブルの正面に陣取って人の食事をじっと眺めていた男がこちらへ向かっておもむろに手を伸ばしてきた。 それをとっさに払いのけ、パシリと響いた大きな音に心臓が跳ねる。 ニヤニヤしながら手をさするだけの男に謝るのも違うような気がして、僅かに目を泳がせると視界の端でさらに深まる男の笑み。 「葉巻、くれねェの?」 「……自分で買えよ」 「スモーカーくんのがいいんだ」 前にも言っただろ、と笑う男の唇からぞろりとした歯が覗く。 再度伸ばされた手が胸元の葉巻ではなくスモーカーの手を捉え、赤い舌が手袋を這ったと思うが早いか人差し指を噛みちぎられた。 ぶつりと肉体が切り離される感覚に眉を寄せるが悪魔の実の能力のおかげで痛みはない。 血の代わりの白い煙が切断面で揺れるのみだ。 煙に変化した指が男の口内で転がされる。 「これでも我慢してるんだ。葉巻をくれなきゃ食べちゃうよ」 飲み込まれることなく吐き出され正しい位置に戻ってきた唾液まみれの指に軽く吸いついたあと男はニヤニヤ笑いのまま席を立った。 胸に挿した葉巻がいつのまにやら一本減っているのに気付き、あの野郎、と唸ったスモーカーの額に青筋が浮く。 葉巻を頂戴、くれないならスモーカーくんのこと食べちゃうからね。 一週間前、そう言った男に己は確かに返したはずだ。 「……喰えるもんなら喰ってみやがれ」 湿った手袋に唇を寄せる。 食べたいというのなら代用品で我慢なんかせず噛みついて咀嚼して腹に収めてしまえばいい。 それがどういう意味合いであろうと、スモーカーに拒絶する意思はないのだから。 |