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「ここは素直に奢られとけって」

立場的にも給料的にもそれが自然な流れでしょうよと冗談めかした言葉で事実を突き付けられ、おれは眉を寄せた。
確かにクザンさんは上司で高給取り、おれは部下で安月給だ。
でもだからといってこんな場面で気を使わないでほしい。
だって。

「……今は」
「ん?」
「今は、デート中でしょ」

上司部下じゃなくて、恋人同士でしょ。
クザンさんはおれの可愛い恋人でしょ。
拗ねたようにそう言うと会計を待ってくれていた店員さんが驚いたようにおれとクザンさんを見比べた。

「ちょ、お前、バッ」
「おれがプレゼントしたら嬉しそうに笑うじゃん。クザンさんの喜ぶ顔見られるならおれは金なんかどんだけ使っても痛くねェし、つーかそれ以外使い道なんかねェし」
「わかった、わかったから、お願いだから黙って……!」

男二人ということを気にしてあたふたしているところに追い打ちをかけるとクザンさんは真っ赤になって頭を抱え力なく呟いた。
氷結人間というだけあって熱に弱いクザンさんはこうして照れさせると簡単に落ちる。
おれの恋人は本当に、ちょろくて可愛い。
涙目のクザンさんを横目に財布から札を取り出し、おれは満面の笑みを浮かべた。