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なにがきっかけだったわけではなく、ふと気がついた。
シガーケースやら酒を飲むグラスやら、手に取るものに男の寄こしてきたものが多くなっている。
ここ最近突然増えたというわけではない。
贈られたそばから片っ端にゴミ箱行きになることも少なくないクロコダイルの厳しい目利きをくぐりぬけた数少ない上物が、少しずつ少しずつ蓄積した結果だ。
さきほどまでそれらを使うことに対しなんの心の動きもなかったのに男の贈物だと認識した途端耐えがたい苛立ちに襲われ、目につくもの全てを廃棄した。
中には十数年愛用していたものもあったが躊躇いはなかった。
淡々と男から贈られたものを袋の中に投げ入れながら、男のことも、いずれ不必要になればこんなふうに容易に捨てられるのだと再確認する。
当然だ。
あんな男に興味も執着もありはしないのだから。


――そのわりに、おれですら贈ったことを忘れてるような昔のものまでしっかり憶えてるんだよなぁ。
ブランド品からオーダーメイドまであらゆるものが乱雑に詰め込まれた袋の処分を贈った当人にさせるという、普通なら怒るか悲しむかするであろう鬼の所業に男は締りのない顔で笑った。
おれはずっとあんたの傍にいるからこんなことしたって無駄なんだと言っても、あの疑心の塊は聞きやしないだろう。
なら一生かけて証明してみせるしかない。
とりあえず今はこの、以前と同じ型の執務用のペンを渡すところから始めよう。
愛用していたものを全部捨てるような馬鹿な真似をして慣れない違和感にイライラしていたから、きっとこれは受け取ってもらえるはずだ。
妙な確信とともに、男はクロコダイルの部屋の扉をノックした。