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いままで「降りましょうか」と尋ねたことはあっても「降ります」と言ったことは一度もなかった。
おれに船を降りたいなんて気持ちは欠片もないのだから当然のことである。
おれはただ、言葉を否定されることで、たとえ戦力としてしか必要とされていなかったとしても船長の意志でこの船にいるんだということを確認したかったのだ。
そのたびに機嫌を悪くする船長に心苦しくなって、おれさえいなければこの人はもっと穏やかに過ごせるんだろうと思いつつ諦めることができなくて、おれは悪くないと、船長がおれを船から降ろさないから仕方ないんだと言い訳をして。
この船に乗ったのは間違いだったとわかっていながらだらだらと居座り続けた。
大切に想うのならさっさと離れるべきだったのに。

「ごめんなさい」

迷惑かけてごめんなさい。
不快にさせてごめんなさい。
好きになってしまって、ごめんなさい。
今更伝える意味もない決意を鈍らせるだけの感情を一言に込める。
未練がましく指で顎のラインをなぞって徐に手を離すと瞬きすら忘れたように固まっていた船長がはくり、と口を開けた。
うまく息ができないといったふうな浅い呼吸音とともにいままで逸らされることのなかった薄茶の瞳がぶれるように小さく動き出す。
微かな呻き声をあげて俯いた船長。
その胸を抑える手がカタカタと震え力を込めすぎて真っ白になっていることに今更気付き、よもや本当に体調が悪かったのかと再度手を伸ばすと同時、船長の目にギラリとした光が宿った。

「……"ROOM"!!」

ベッドの脇に立てかけてあった刀を手に取った船長がサークルを展開し、あまりにも必死な形相に気を取られる間に白刃が閃く。
また上下に斬り分けられると思い上半身が床に落ちる衝撃を覚悟した俺の目の前でなぜか。

「…………え?」

なぜか、切り離されたおれの右腕が宙を舞い、そのまま船長に抱きこまれるようにして奪い去られた。