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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「ええ、もうこの際だから白状しますけどね、おれはあなたのことが好きなんですよ。別に媚びを売って多少好かれたところで結ばれる可能性なんてないのはわかってますけど、どうせなら好意的に見てもらいたいじゃないですか。恋愛の機微ってそういうものでしょう」

 気の抜けた空気と自分なりに努力したのが結局全部無駄だったらしい事実になんだかもう面倒になってヤケクソ気味にぶちまけるとサカズキ大将はまったく理解できていない様子で「れんあい」と呟いた。
 そうですよ恋愛ですよ。あなたが今しがた理不尽な理由でキレてた部下はあなたのことが恋愛対象として好きなんですよ。理解しがたいですよねおれだっていまだに納得いかないです。
 尻尾さえ見えなきゃ絶対好きになんてならなかった。
 幻覚の尻尾が見えて、尻尾の感情をそのままに反映した幻のサカズキ大将に恋をして、そうしたら尻尾は関係ないとわかっているはずの現実のサカズキ大将のことまでうっかり本気で好きになってしまった。
 媚をうって好かれることができるなら、赤字も気にせず二束三文でたたき売りするくらいには好きになってしまったのだ。

「……よりを、戻したんじゃろうが」
「より?」
「和菓子屋の看板娘と」
「ありえないですね!!お互いに幻滅して別れたのに復縁とか絶対ないです!だいたいあいつ子持ち既婚者ですよ!?」

 どこで聞いたのか知らないがとんでもない勘違いをしているらしい大将の言葉をくいぎみに否定すると大将は少し怯んだように唇を結び、睨むというには弱い探るような視線をむけてきたがおれと彼女の間には本当に何もないのでそんなものは痛くもかゆくもない。
 彼女との別れはまさに幻滅というのがふさわしかった。二人揃って自分の見たいものしか見ていなかったから、距離が近づいて見たくないものが見えたら簡単に冷めてしまったのだ。人間としては好ましい相手だし付き合っていた当時の記憶も別段悪いものではないがもう一度そういう関係に戻れるかといわれたら答えは絶対にノーである。

「なら、わしがあの店は使うなと言うたら従うんじゃろうな」
「そりゃあわざわざ大将が好きじゃない菓子買う意味ないですし」
「……いまお前がつけちょるんはあの娘の好みの香水じゃろうが」
「そんな話よく覚えてらっしゃいましたね。前に買ったのが残ってたから使っただけで他意はないですし大将が好まれないなら捨てますよ」

 どうせなら次のを買う前にどんな香りが好きなのか教えてもらいたいのだがダメだろうか。告白なんてしようもんなら殺されそうだなと思っていたのが混乱のおかげか案外穏やかにやりとりできていることで少し調子に乗ってそう考える。
 おれにどうしてほしいか正しい媚び方を教えてもらって、その結果少しでも好かれることができたらそれこそwin-winというやつだと思うのだが。

「サカズキ大将。おれが好きなのはサカズキ大将であって和菓子屋の彼女ではありません。交際だのなんだのという身の程知らずなことは望んでいませんがせめて人として好かれたいとは思っています。嫌なところは変えていきますから、どうすればいいか教えていただけますか?」

 いまだにわが身に何が起きているのかわからないとでもいったふうななんともいえない表情をしているサカズキ大将にイチかバチかで尋ねてみると、いろいろなものを飲み込んでなんとか一言捻り出したように「菓子以外全部前に戻せ」と言われた。
 好かれるための方法を聞いたのに好かれていなかったころに戻せと言われるなんて納得いかない気がしたが大将の様子を見れば適当に言ったわけではないというのはわかったので反論はせず素直に頷いておく。そんなおれの態度に大将はほんの少し強張った顔を緩め、尻尾はぱたぱた左右に揺れた。
 大将本人もその尻尾も、さっきまでの謎の怒りからのふり幅が大きすぎて愛おしさ二倍どころじゃないんだよなァ。