いやだから、撫でたりしたらおれの腕が。 むしろこの状況だと腕どころか命がなくなっちまうって。 まさか甲板での話を蒸し返されるとは思っておらず、顔をはさまれたまま何も言えずに口を開閉させる俺にベポが「船長室に行ってキャプテンのこと撫でて、それで好きか嫌いかはっきり聞いてみなよ」と更なる無茶ぶりを押しつけてきた。 拒否しようにも「悪いことにはならないから。おれのこと信じてくれないの?」なんて言いながら再度爪を立てられれば、ついさっき信じてもらえていないことに対する痛みを味わったばかりのおれに逃げ場はない。 引き攣った表情で小さく了承の意を伝えると外野から悲鳴があがる。 お前ら、おれが船長のとこにいくのがまずいなら見てないで助けろよ。 バラされるときは一緒だからなとか、そんな一蓮托生感はいらねェ。 「もし嫌いって言われても、どこが嫌いなのかまでちゃんと聞くんだよ。終わったらここに戻ってきてね」 「……あいあーい」 肉体と精神にダブルコンボを決められつつ大部屋の外に放り出され、ふらふらと廊下を歩きだす。 気分は処刑場へ向かう囚人だ。 ものすごく憂鬱。 だって、ベポは優しいからそう思ってないみたいだけど、船長がおれのこと好きか嫌いかなんて嫌い一択だろ。 ペンギンたちが騒ぎながらも止めなかったところをみると殺されるってのはおれの考えすぎのようだがミッションコンプリートのあかつきに腕はもがれる。 絶対にだ。 とはいえ念押しで報告義務まで課せられてしまっては有耶無耶にするわけにもいかないし。 「…………船長、はいりますよー」 そう広くはない船内、だらだらとした歩みでもすぐに辿りついてしまった船長室の前で息を整え極小に絞った声をかけて音をたてないよう扉を開く。 船長は酒を飲んで潰れたというシャチの言葉を信じ、眠っていたらそれを理由になにもせず部屋に戻ろうと考えたのだ。 問題の先延ばしにしかならないとわかっていても、やはり直接「嫌いだ」と言われるのには耐えられないだろうから。 「失礼しまー……!」 返ってこない声にどうやら寝ているようだと少し安心して、開いた扉の向こうからこちらを凝視する双眸に絶望した。 超ぬか喜びじゃねェか……船長なんで起きてんの……。 |