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アルバがサカズキの誕生日を祝い始めたのは十年前。
話の流れで誕生日を尋ねられ、ちょうど今日その日だと伝えると「今日!?」と素っ頓狂な声を上げたアルバはもっと早く言えよと焦ったようにぶつくさと呟きながらポケットを探り、暑さでべたついた飴を数個手に握らせてきた。
来年はちゃんとしたプレゼント用意するからな、なんてまるでサカズキがそう望んでいるかのような言い回しに眉を顰めていらんと吐き捨てたがその言葉を聞いていたのかいなかったのか、アルバは翌年本当にサカズキへのプレゼントを用意してきた。
そのころには誕生日云々というやりとりがあったこと自体すっかり忘れてしまっていたサカズキは祝いの言葉と共におしつけられたプレゼントに唖然として、不覚にも拒否するタイミングを逃してしまったのだ。
最初の飴とその次のプレゼント。
不可抗力とはいえ二年連続で受け取っておいて三年目に頑なに拒否するのもおかしな気がしてそこからはもうアルバがサカズキを祝うのは恒例行事のようになっていった。
どんな顔をしていればいいか分からず舌打ちとともに受け取っていたのが「おめでとう」「おう」という短くも自然なやりとりになった。
六年目に一度部下を巻き込んで盛大に祝われた時は少し苛立ってああいうのは好かんと文句を言った。
アルバは少し驚いたように目を見開いたあとなぜか嬉しそうに微笑んでわかったと頷いた。
翌年からサカズキの誕生日はまたアルバからの祝いの言葉とともにプレゼントを渡されるだけの静かなものに戻った。
二人きりの短いやりとりにどこか儀式めいた厳かなものを感じて、そんな風に思った自分を馬鹿馬鹿しいと鼻で笑った。

そして十年目。
サカズキとアルバは数日前から喧嘩をしていた。
数カ月先に予定されている作戦について珍しく意見が対立したのである。
売り言葉に買い言葉で「お前なんかもう知らん」と怒鳴り声をあげ部屋を出ていったアルバとはそれ以来まともに顔も合わせていないがサカズキは何も気にしていなかった。
なにせ誕生日が近かったのだ。
誕生日のアルバはサカズキにとても甘い。
プレゼントのときと同じくはじめはむず痒いばかりだったアルバの甘さもここ数年で当然のこととして受け取るようになった。
だから当然サカズキが歩み寄る必要などなく、当然アルバが折れて、当然二人きりの静かな場所でプレゼントを渡されおめでとうと言祝がれるものとばかり思っていた。
しかし誕生日当日である今日いつまでたってもその当然が訪れることはなく、待ちぼうけのまま時間だけが過ぎていった。
なにかおかしいと不安を覚え、目を逸らし、それでも耐え切れずアルバを探し始めたサカズキが見つけたのは数人の部下と仕事終わりに酒を飲みに行こうという約束をとりかわしているアルバの姿で。

「……なんでそんな顔するんだよ」

裏切られたと思った。
アルバはこのままサカズキとの時間をとることなく他の人間と過ごすつもりなのだと。
一度自分の方を見たくせに無視しようとしたアルバから目が離せず、けれど渦巻く感情を言葉にすることもできなくてじっと立ち尽くすサカズキにいつの間にか近づいてきていたアルバが困惑と呆れの混じった声をかけた。
一緒にいた者は解散させたのかこの場にいるのはアルバ一人だけだ。

「今日は、」
「うん」
「たんじょうび」
「うん……いや、まあ憶えてたけどさァ、喧嘩してる相手に和解もしないで誕生日のお祝いねだるってお前」

絞り出すような声に溜息を吐いておれは本当に怒ってたんだからプレゼントなんて用意してないぞとポケットを探ったアルバが握らせてきたのはいつぞやと同じ、べたついた数個の飴。
そうして毎年と同じようにおめでとうを口にしたアルバに安堵と懐かしさに加え少しの怒りと欲がわいて「足りん」と言うと、「来年はちゃんとしたの用意するから」と背中を叩かれた。

「でもさすがに飴だけってのもなんだしな。仕事終わったら飲みに行くか?」
「……騒がしいのは好かんと前に言うたじゃろうが」
「わかってるって。さっきのやつらと飲むのはもう断ったから、今日は二人だけ」

二人だけ、という言葉にピクリと反応して帽子のつばを下げたサカズキにアルバがいたずらっぽく笑いかける。
「お前おれと二人きりで特別扱いされるの好きだよな」とくつくつ喉を鳴らすアルバに、手の中の飴がジュッと音を立てて焼失した。